本研究では、安価に高速無線通信を実現するために、nMOSFETの最大発振周波数fmaxがおよそ34GHzである0.18μm CMOSプロセスを用いて、搬送波周波数がfmaxのおよそ2倍となる60GHz帯無線トランシーバの実現を目指した。nMOSFETのfmaxを向上させるため、nMOSFETの構造の最適化を行った。また、ミリ波帯のデバイスモデルが存在しないためミリ波帯で使用可能なデバイスモデルを作成した。作成したミリ波帯nMOSFETコンパクトモデルを用いて設計した20GHz発振器を評価した結果、発振周波数は19.1GHz、出力電力は-17.2dBmであった。また、試作した60GHz帯アップコンバージョンミキサを評価した結果、局部発振信号の周波数58GHz、入力電力2dBm、ベースバンド信号電力-10dBmのときに、変換利得-8.2dB、変換利得の-3dB帯域幅5.9GHzを実現した。容量中和技術をアップコンバージョンミキサに用いることにより、変換利得がおよそ22%増加することがシミュレーションにより示された。このアップコンバージョンミキサは、これまでに報告された60GHz帯アップコンバージョンミキサの中で最もfmaxに対する動作周波数の比率が高い。また、このアップコンバージョンミキサと外部のダウンコンバージョンミキサを用いて通信実験を行った結果、16直交振幅変調方式を用いて3Gbit/sの通信速度でビット誤差率10^-3以下の通信品質を実現した。本成果により、fmaxのおよそ2倍の周波数である60GHz帯でGbit/s級の通信速度を実現できる見通しが得られた。本研究により、レガシープロセスでもミリ波帯無線トランシーバが実現可能であることが示されたため、ミリ波帯を用いたIoTの普及がより一層進むものと期待される。
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