昨年度,新たな課題として明らかになった1局の海洋レーダを用いた津波波峰推定手法の改善策を検討し,南海トラフ巨大地震津波を対象とした波峰推定を実施した.津波シナリオとして,最大規模であるMw9.1(内閣府想定,シナリオ3)に加え,特性化波源モデルを用いたMw8.6のシナリオを検討した.対象となる津波シナリオは,大すべり域および超大すべり域が紀伊水道沖に形成されていると仮定され,すべり量の不均一性を考慮した.設定された津波シナリオに対して,Okada(1992)の方法を適用し導出した津波波源を初期条件として,津波の伝播計算を実施し,海洋レーダの観測面における視線方向流速および水位の時空間分布を出力した.得られた流速結果を用いて,Fuji & Hinata(2017)による仮想津波実験(実観測データに含まれるノイズや潮流成分の考慮)を行い,Ogata et al.(2018)の手法を用いて,仮想津波実験の計算結果から津波成分を抽出した.抽出された結果に対して,再検討した津波波峰推定法の改善策を適用した.具体的には,海洋レーダの各測線上で観測された視線方向流速を,レーダ局側から沖側まで一定範囲内で移動探索し,最大値を抽出する方法である.再検討手法を適用した結果,昨年度の方法で抽出できなかった2つの峰を有する津波波峰を捉える事が示された.また,移動探索の検索幅は,シナリオや設置場所近辺の海岸地形により調整する必要性が示唆された.
|