研究課題/領域番号 |
18H05918
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中西 智宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (90824293)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 配水システム / マンガン / 黒水 / 化学形態 / 浄水処理 / 目標濃度 |
研究実績の概要 |
本研究は浄水中のマンガン(Mn)の配水管内での蓄積とそれによる黒水の発生を浄水処理によって制御することを見据え、黒水発生制御の観点から適切な浄水中Mn 濃度をその形態(Mn2+/コロイド態/懸濁態)ごとに提示することを目的としている。 平成30年度は室内実験によって配水管内面に対するMn付着物の基礎的な形成特性を把握するとともに、水中Mnの形態(Mn2+/懸濁態)によって異なる付着機構を考慮した付着モデルによって付着物形成に関する速度論的パラメータを収集した。 室内バッチ式付着実験では、Mn濃度10 μg/Lの硫酸マンガン溶液300 mLに残留塩素濃度が1.3 mg/Lとなるように塩素処理を行い、一般的な配水管内面材質であるエポキシ樹脂粉体塗膜片と3日間接触させた。同じ試験片に対して上記操作を5回繰り返し、計15日間のMnの付着量の推移を測定した。また、水道水中の共存物質である臭化物イオン(Br-)は酸化反応を促進することが知られているため、Br-濃度を0, 30, 100 μg/Lに変化させてその影響を把握した。その結果、付着期間3~6日までは付着量は時間的に一定速度で増加したのに対し、それ以降は付着量の増加速度が上昇した。さらに、Br-濃度が高いほどその増加速度の上昇度は大きくなった。これより、付着初期には水中に形成したMn粒子の物理的付着が支配的であり、その後はMn付着物を自己触媒としたMn2+の酸化反応による蓄積が支配的となることが推察された。続いて、Mn粒子の物理的付着とMn2+の酸化反応による付着を記述した数理モデルを構築し、上記の実験結果と合わせることによりMn付着物形成に関する速度論的パラメータを収集することができた。 以上の結果により、浄水処理によってMn濃度だけではなくMnの形態も制御することによって実際の配水管網における蓄積を抑制できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は1. 室内付着実験によるMnの付着特性の把握、2. Mn付着モデルの構築とそのパラメータ推定、および3. 連続通水式のMn付着実験の予備検討の3点が検討事項であった。このうち1と2は当初の計画以上に研究が進んでおり、Mnの形態別の付着特性の把握とそのモデル化に加えて、配水管内面材質の違いが付着特性に及ぼす影響なども把握しモデル化できた。 3の連続通水実験の予備検討についても概ね予定通りの検討を進めている。通水実験では配水管内の水の流れを模擬できるリアクターに種々の形態のMnを含んだ水道水を連続的に通水し、Mn付着物の形成過程を水中Mnの形態(Mn2+/コロイド態/懸濁態)別に把握する。平成30年度はリアクターの構築、通水条件の決定、実際の水道水を用いた試運転を終了している。また、通水する試験水中のMnの形態をコントロールするために、リアクターの前段で硫酸マンガン溶液を含んだ水道水を塩素処理し、その反応時間によってMn粒子の成長度を調節する必要がある。その適切な反応時間の検討には当初の想定よりも長い時間がかかっているため、引き続き次年度も検討する必要がある。 以上の状況を総合的に考慮すれば、平成30年度は概ね順調に本研究を遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、連続通水実験における前段の塩素処理条件の検討を行う。Mn濃度を厳密に形態別(イオン、コロイド態、懸濁態)に分けて定量することは困難であるが、LC-MS/MSやシングルパーティクル分析が可能なICP-MS等の分析機器の利用を検討する。適切な塩素処理条件を決定したら、連続通水実験によって配水管内の流れに近い条件下でのMnの付着過程を把握する。その際、試験水中のMnの形態比(Mn2+/MnO2比)を数段階に設定して実験を行い、Mnの化学形態が及ぼす影響も評価する。さらに、前年度に構築した付着物形成モデルを適用することでモデルパラメータの校正を行う。 上記と並行して、実際の配水区域を対象として管内のMn蓄積物とその区域を流れる浄水中Mn濃度・形態に関する実態調査を行う。配水管内に存在するMnの蓄積量は、配水管の洗浄作業で出る排水を採取・分析することで定量化する。 最後に、構築したモデルと実態調査の結果からモデルの妥当性を評価する。必要に応じてモデルパラメータの調整を行った後、そのモデルを用いたシミュレーションにより浄水中Mn濃度や形態がMnの蓄積に及ぼす影響を評価する。具体的には、内径150 mmの仮想的な配水管を想定し、計算期間を20年として浄水中のMn濃度やMnイオン/酸化態Mnの割合を変化させて蓄積量を計算し、適切な浄水中濃度と形態を考察する。
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