申請者の先行研究では,開発した呼吸再訓練法と呼ばれる特別な呼吸法を事前に実施すると,緊急事態時であっても,ある程度迅速かつ落ち着いて行動できることが明らかとなった。本研究では,今までの先行研究を踏まえ,呼吸再訓練法以外にも同様の対処法が開発できるかを検討した。今回は,認知行動療法でよく用いられる認知再構成法を,現場でも用いられるように簡易的した手法を開発し,その効果を検証した。 実験参加者は20代から35歳までの男性33名であり,簡易版認知再構成法を課題前に実施する介入あり群・事前になにも実施しない介入なし群の2群であった。参加者には,先行研究で用いた水道管課題を全参加者に課した。この課題は,マウスクリックにより複雑な水道管のスイッチの配置を変え,目標(水流を通して、赤電球のみを消灯すること)を達成する課題であった。更に,環境条件も設定し,緊急事態条件・タイムプレッシャー条件・統制条件の3つの環境を設定し,同じく全参加者に課した。行動指標は,課題の総クリック回数,所要時間,クリック間の間隔時間を指標とした。 以上の実験結果から,簡易版認知再構成法を事前実施してから実験課題に取り組むと,所要時間には変化がないが,課題の総クリック数は少なくなり,クリック間の間隔時間は長くなることがわかった。これは,クリック間の間隔時間を課題を解くための考察時間だと考えると,適切な考察時間を十分とることで,総クリック数を少ない状態でクリアできたと考えられる。さらに,この傾向は,緊急事態条件でも統制条件でも同様に見られた。つまり,簡易版認知再構成法を事前に実施すると,効率よくかつ,よく考えた上で作業を実施できる。
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