研究課題/領域番号 |
18H05929
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 由乃 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (20825260)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 地域継承性 / オープンスペース / 開発計画 / 再生 / 社会主義 / 大規模住宅団地 / プラハ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、チェコ共和国において、社会主義時代に開発された「大規模プレハブ集合住宅団地の再生」プロセスの中の「オープンスペースの空間性及び使われ方」を、「周辺環境との応答とその中にみられる地域継承性」に着目し、明らかにすることである。具体的調査内容は、チェコ共和国プラハ市プラハ11区の住宅団地イジュニームニェストを調査対象とし、その設計手法、空間、運営主体の変化について、資料分析、現地調査及びインタビュー調査を主に用いて明らかにした。 本年度の調査より得られた知見は以下の通りである。社会主義時代のオープンスペース計画は全体的なコンセプトを重視し、各グループに設定したテーマに基づいた芸術作品の設置やデザインコンペの実施など、社会主義的思想性・芸術性が重視されていた。それに対し、民主化以降の大規模オープンスペースの位置づけは、その場所に与えられた用途(交通、商業など)の拠点として捉えられていた。また、小規模オープンスペースについては、小規模、短期間で地道な再生施策を積み重ねる方針への変化が見られた。また、コートヤード構成要素の扱いについては、実用性が重視されるベンチ・ゴミ箱などの設備は老朽化したものは取り換えらえる方針があるのに対し、彫刻など芸術性を有するものや、噴水、階段式観覧席など全体の空間構成に関わるものは、保存・再生などによって既存のコンテクストが引き継がれている。さらに、時間の経過とともに成長した木々が多くのコートヤードで見られるのに加え、けもの道など、当初計画されていた訳ではないが表れてきた、これまでの近隣地域が形成してきた日常生活の蓄積も、再生デザインの中に組み込まれていた。以上のことから、当初は新規開発として総合的なデザインが行われたが、現在は実際に使用していく中で、開発当初からの履歴は残しつつ、実生活にそぐわない箇所を修正していくプロセスにあると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
チェコ共和国プラハ市プラハ11区にある大規模集合住宅団地イジュニームニェスト内及び周辺部のオープンスペースについて、その①物理的変化、②運営主体、③使用実態を、資料分析、現地観察調査、地域関係者インタビュー調査を用いて明らかにした。 物理的変化に関する調査については、資料調査及び現地視察、行政担当者へのインタビュー調査によって、オープンスペースのデザインだけでなく、さらに大きな枠組みでの開発コンセプトや、そのデザインに至るまでの経緯を明らかにした。また、2018年度の現地調査結果の一部については、2019年度の国際会議での口頭発表及びプロシーディングの発行が決定している。 運営主体に関する調査については、民主化後、オープンスペースの所有者が誰であるかによって再生プロセスが異なることが分かった。また、機能が不要になった既存の公共施設を、個人所有者が店舗として利用するなどのコンバージョンが行われていることも明らかになった。上記の調査結果は、より詳細な分析を加えて、2019年度中に査読付き論文にまとめる予定で準備を進めている。 使用実態に関する調査については、予定通り今後の実施を予定している。 以上のことから、当初の計画で実施を予定していた調査・国際会議発表の準備は予定通りに進んでいる。また、現地調査では予定していた以上に多様なオープンスペース再生状況が明らかになった他、不要になった既存の公共設備を生かした民間個人によるコンバージョン、ウェブサイトを用いた住民参加型地域再生事業などの挑戦的先進事例も確認出来たことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
チェコ共和国プラハ市プラハ11区にある大規模集合住宅団地イジュニームニェスト内及び周辺部のオープンスペースの①物理的変化、②運営主体、③使用実態に関する研究について、調査及び論文執筆を行う。①②については、これまでの資料分析、現地観察調査、地域関係者インタビュー調査結果について、国際会議での口頭発表を予定している。また、更に分析を進め、その内容を査読付き論文にまとめる。 ③使用実態に関する調査については、昨年度の現地調査が冬期であり、使用者が少ないと想定されたため、本年度初夏の調査を予定している。また、以上の調査で得られた知見をもとに、今後のオープンスペース再生に関する市民参加型地域イベントを開催し、地域の将来像について地域住民の意見を広く集め、共有する機会を設ける。現地調査は国際会議発表に合わせた6月と、地域イベントが実施される9月の2回を予定している。 9月までの調査を終えた時点で、③を中心とした調査内容を今年度中に論文にまとめる。
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