本研究は、チェコ共和国プラハ市プラハ11 区の住宅団地イジュニームニェストにおいて、社会主義時代に開発された「大規模プレハブ集合住宅団地の再生」プロセスの中の、「オープンスペースの空間性及び使われ方」について、「周辺環境との応答とその中にみられる地域継承性」に着目して、計画の意図や物理的変化を明らかにした。 過年度までに、社会主義時代のアーカイブ資料をもとに、開発当初のオープンスペースの計画の意図を明らかにした。さらに、その中でも特に社会主義体制下のオープンスペースを特徴づける造形芸術作品の存在に着目し、その設置計画と現存状況について分析を行った。 その結果、JM I 内において政治色の強い造形芸術作品は結果として現存しない一方で、政治体制が変わっても普遍的に受け入れられると思われる造形芸術作品は現存していることが明らかになった。また、噴水など維持管理が必要なものについては、メンテナンスの困難さが作品の撤去の一因となっている可能性が示唆された。JM I において現存する造形芸術作品は、JM I の開発計画の意図の多くは実現されなかったという経緯の中で、当時の開発計画関係者らが意図した公共空間を構成する要素の一端として捉えることが出来、それは、集団に新しい概念を与えるといった劇的なやり方ではなく、人々の日々の生活の中の一部として静かに、屋外公共空間の中でその文化的価値が受容されるという形で、現在に繋がる都市の構成要素となっていると考えられる。 以上の内容は、2021年6月に日本建築学会計画系論文集に掲載され、本年度の残額はこの論文投稿料として使用した。
|