① 中心体の過剰複製を引き起こす3-ABをCHO-K1細胞に添加し、染色体数が有意に増加したクローンをこれまでに複数単離している。また、高染色体数の細胞を宿主細胞として外来遺伝子を導入すると、導入される外来遺伝子のコピー数が高くなる傾向がみられていた。これらの細胞について生産試験を行ったところ、高染色体数の細胞を宿主とすると、高い生産性が得られる傾向にあった。次に、GFPの発現ベクターを一過的に発現させ、そこからGFPの発現強度が高くなるクローンを選択した。取得したクローンに抗体遺伝子を導入し、難発現性のものを含む複数種類の抗体についてそれぞれ安定発現細胞を構築したところ、変異を起こす前のCHO-K1細胞を宿主とした場合と比較して、IgG1抗体で約65倍、IgG3抗体で約7倍、二重特異性抗体で約33倍、三重特異性抗体で約3倍、比生産速度が高くなる結果を得た。また、染色体異数性誘発による宿主細胞の染色体数の増加が、生産する抗体(IgG1)の糖鎖構造に影響を及ぼさないことを確認した。これらの取得したクローンについて網羅的遺伝子発現解析を行い、高生産性となるクローンで共通して発現量が高い遺伝子を295個同定した。今後、これらの遺伝子について解析することで、高生産宿主細胞となり得る要因の解明が期待される。得られたこれらの結果については、近々学術雑誌で発表をする予定である。 ② CHO-K1細胞の安定染色体に組換えタンパク質の発現ベクターを導入する試みを行ったところ、染色体上の不特定な位置に導入する場合と比較して、高い生産性をもつセルプールを得ることができた。しかし、安定染色体由来の配列にベクターが導入されている細胞が確認できたものの、遺伝子ターゲティングを行った影響からか複雑な転座を起こしており、中でも最も高い生産能を示したクローンは目的位置に遺伝子が挿入されていなかった。
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