本年度は、まずメカノケミカル反応により合成したLi2S-P2S5系固体電解質を出発とする硫化物多量体電解質のラマン分光分析による構造解析を行った。その結果、架橋硫黄によるものと考えられる位置にピークが観測され、硫化物固体電解質が多量体化していることを示唆する結果を得られた。また、多量体化が進むにつれて、リンと硫黄の結合に関するピークが低波数側にシフトすることがわかった。次に、出発とするLi2S-P2S5系固体電解質の構造を、Li3PS4からLi4P2S7に変えた場合の検討を行った。Li3PS4の場合と同様に、多量体化が進むにつれて、リンと硫黄の結合に関するピークが低波数側にシフトしたが、同じ架橋割合で比べたときに、Li4P2S7を出発とした方が、より低波数側に現れることがわかった。また、X線回折測定により、Li4P2S7の場合は、架橋割合が少ないときに副生成物のリチウム塩が結晶化せず、このとき導電率が増加することがわかった。 次に、硫化物多量体電解質に含まれる副生成物のリチウム塩を有機溶剤による洗浄で取り除くことができないかを検討した。エーテル系、エステル系、およびそれらの炭化水素系との混合溶媒について検討したが、硫化物多量体とリチウム塩が共に溶解してしまい、洗浄による除去は困難であった。 硫化物多量体電解質の応用として、硫化物多量体をバインダーとして利用することを検討した。硫化物多量体をバインダーとして用いたLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極や黒鉛負極の塗工シートは、曲げが可能な柔軟性を有しており、これらを用いて作製した全固体電池は、優れた充放電特性を示すことがわかった。
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