研究課題/領域番号 |
18H05950
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
東 直輝 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (50823283)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | DNAサイズ分析 / マイクロ・ナノ流体デバイス / DNA1分子伸長・固定 / 光学的超解像法 / DNA1分子操作 |
研究実績の概要 |
薬剤耐性菌による感染が発生した際には迅速な感染拡大対策が要請される.それには,細菌の遺伝子型の高速な判別が必須であり,DNAのサイズ分析法が用いられる.しかし,これまでの方法では,分析に一定量のDNA断片が必須であったため,細菌の培養工程が必須であったが,培養工程に数日を要していた.申請者が本研究で提案した,微小流路内のDNA1分子伸長・固定と光学的超解像法による高精度なサイズ測定が実現されれば,DNA1分子で培養工程の不要な新規サイズ分析法を実現できる. 本年度では,微小流路内のDNA1分子伸長・固定法の実現を試みた.まず,申請者は,当初の提案手法である,ランダムコイル状のDNA1分子の直径よりも小さな隙間である「ナノスリット」を用いた伸長・固定法を試みた.その結果,30 nmのナノスリット内にDNA1分子を泳動させることで,伸長させることに成功した.伸長した長さを蛍光顕微鏡によって観察した結果,伸長率50%であった.しかし,この方法では,DNA1分子の熱運動によって伸長率を向上することが困難であった.さらに,微小流路内で伸長したDNA1分子をそのまま固定することが困難であった. そこで申請者は,微小流路内の気液界面の移動を用いたDNA1分子伸長・固定法を新たに提案した.微細加工技術によって形成した微小流路内で圧力印加によって気液界面の移動を制御した.その結果,気液界面移動による表面張力によってDNA1分子を伸長・固定することに成功し,伸長率80%を達成した.さらに申請者は,光学的超解像法を用いて,伸長・固定されたDNA1分子の高精度なサイズ測定に挑戦した.その結果,通常の光学的手法と比較して,高精度なサイズ測定を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が提案したサイズ分析法の実現に向けて,本年度では,主に微小流路内のDNA1分子伸長・固定の実現に取り組んだ.ます,提案当初のランダムコイル状のDNA1分子の直径よりも小さな隙間である「ナノスリット」を用いたDNA1分子の伸長法を用いることで,微小流路内でDNA1分子の伸長に成功した.伸長率は50%程度であった.しかし,ナノスリット内のDNA1分子の熱運動によって伸長率の向上が見込めなかった.さらに,伸長したDNA1分子をそのままナノスリット内で固定することが困難である問題に直面した. そこで,申請者は,新しい方法として,微小流路内の気液界面移動によるDNA1分子の伸長・固定法を提案した.この方法では,微小流路内の圧力印加による気液界面移動に伴う表面張力によってDNA1分子を伸長しながら,そのままガラス基板に固定できる.微細加工技術によって微小流路を作製し,この伸長・固定法を試した結果,微小流路内でDNA1分子を伸長・固定することに成功した.さらに,圧力の大きさを制御することで気液界面の移動速度を制御することに成功し,大きな移動速度に設定することで伸長率を向上することに成功した.伸長率は80-90%を達成した. 以上のように,当初の計画では予期できなかった問題が生じた.しかし,新たに提案した方法を用いることでその問題を解決することができた.さらに,光学的超解像法を用いたDNA1分子のサイズ測定法に挑戦し,その実現可能性を検証することも成功した.以上の観点から,本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,新たに提案した方法である微小流路内の気液界面移動によるDNA1分子の伸長・固定法について,伸長率の向上を達成する.現在の成果から,DNA1分子の伸長率は,微小流路の深さや気液界面の移動速度に依存することが示されている.微小流路の深さは微細加工技術によって制御できる.また,気液界面の移動速度は,印加する圧力によって制御できる.したがって,様々な流路深さや気液界面速度を用いて1分子伸長・固定実験を行い,蛍光顕微鏡によって伸長率を評価する.それにより,本伸長・固定法における,伸長率の流路深さと気液界面速度依存性を調査する.その結果に基づいて,伸長率を最大にする最適な流路深さと気液界面移動速度を決定する.これにより,DNA1分子の伸長率100%の達成を目指す. また,本研究のもう一つのコア技術である,光学的超解像法によるサイズ測定の高精度化を達成する.本研究では,光学的超解像法の1つであるSTORM法(Stochastic optical reconstruction microscopy)を用いている.この方法は,強いレーザー光で全ての蛍光分子をいったん発光させ無蛍光状態にした後に,退色させた蛍光分子のうち一部の蛍光分子のみを,弱い光で確率的に発光させ,発光した分子の位置を特定する.この退色・発光サイクルを繰り返すことで,蛍光分子一つ一つの位置を回折限界を超えた精度で特定できる.伸長・固定したDNA1分子について,STORM法によってサイズを測定し,通常の光学的手法と比較することで,測定精度を評価する.また,この方法の面内分解能は輝度値のSN比で決まるため,蛍光分子の発光条件や撮像条件を最適化して,面内分解能を向上し,高精度なサイズ測定を実現する.
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