薬剤耐性菌による感染が発生した際には迅速な感染拡大対策が要請される.それには,細菌の遺伝子型の高速な判別が必須であり,DNAのサイズ分析法が用いられる.しかし,これまでの方法では,分析に一定量のDNA断片が必須であったため,細菌の培養工程が必須であったが,培養工程に数日を要していた. 本研究は,DNA1分子で培養工程の不要な新規サイズ分析法の提案を目的とした.そのため,申請者が提案した微小流路内におけるDNA1分子の伸長・固定と光学的超解像法によるDNA1分子の高精度なサイズ測定の実現可能性について実験的に検証を行った. 申請者はまず流路内の圧力流れと気液界面の移動を用いたDNA1分子の伸長・固定法を試みた.微細加工技術を用いて2マイクロメートルの深さの微小流路を作製し,流路内で圧力印加による気液界面の移動を用いてDNA1分子の伸長・固定を実現した.次に,伸長・固定したDNA1分子について,光学的超解像法の1つであるSTORM(Stochastic optical reconstruction microscopy)を応用して,そのサイズを高精度に測定することを試みた.その結果,通常の光学的手法を用いたサイズ測定と比較して,サイズ測定の精度を4倍向上することに成功した. 本研究で得られた研究成果は,従来のゲル電気泳動法やマイクロチップ電気泳動法とは原理が異なる新しいサイズ分析法を確立するための基盤的な知見となるものである.本分析法によって,分析に多数のDNA分子を必要とせず,DNA1分子でサイズ分析ができるため,細菌の培養が不要となり,分析時間が飛躍的に短縮でき,薬剤耐性菌の迅速な感染対策の実現が期待できる.
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