研究課題/領域番号 |
18H05951
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
後藤 和泰 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (40821690)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ構造 / シリコン表面 / 保護膜 |
研究実績の概要 |
結晶シリコン表面を電気的に不活性化するための導電性を有した保護膜を開発することを志向し、本年度はシリコンナノ構造をシリコン酸化膜中に形成し、その電気的特性の評価を行った。 近年、1-2 nm程度の厚さのシリコン酸化膜を用いた太陽電池が、高い変換効率を示すことで注目を浴びている。その高い変換効率は、シリコン表面を電気的に不活化する(パッシベーション)性能が非常に高いことに加え、キャリアの輸送も可能であることにより実現されている。そこで本研究では、高いパッシベーション性能を有する導電性保護膜の開発を目指し、シリコンナノ構造をシリコン酸化(SiOx)膜中に形成し、シリコンナノ構造をキャリア輸送経路として用いることで導電性を制御してSiOx膜に付与することを試行した。 プラズマ援用化学気相堆積法を用いて水素化アモルファスシリコンオキサイド(a-SiOx:H)の積層構造を作製し、熱処理を行うことでSiOx膜中にシリコンナノ構造の形成を行った。保護膜のパッシベーション性能の指標となる実効キャリアライフタイムおよび、電気伝導の指標となる接触抵抗を調査した。本年度は、a-SiOx:H層の膜厚を変化させ、かつ熱処理の温度を変化させて実効キャリアライフタイムと接触抵抗を調査した。熱処理前には実効キャリアライフタイムが20 usと非常に低い値を示したが、750℃で熱処理することで700 usと比較的高い値を示した。750℃以上の温度での熱処理では、実効キャリアライフタイムが減少傾向を示した。また、接触抵抗も750℃から900℃に熱処理温度が上昇するに伴い、約25から5 mOhm/cm^2まで低下した。これらの結果から、熱処理温度の上昇に伴い、SiOx膜中にシリコンナノ構造が形成されてキャリアが表面側に輸送が容易になり、実効キャリアライフタイムと接触抵抗が減少したことを示唆する結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、プラズマ援用化学気相堆積法を用いて水素化アモルファスシリコンオキサイド(a-SiOx:H)の積層構造を作製し、熱処理を行うことでシリコン酸化(SiOx)膜中にシリコンナノ構造を形成を行った。熱処理の温度を変化させて実効キャリアライフタイムと接触抵抗を調査し、熱処理温度の上昇に伴い、SiOx膜中にシリコンナノ構造が形成され、キャリアが表面側に輸送されやすくなり実効キャリアライフタイムと接触抵抗が減少したことを示唆する結果を得ることができた。電気的特性からはコンセプト通りの結果を得ることができたため、おおむね順調に研究が進展している。しかし、まだシリコンナノドットが形成されていることを示す証拠となる構造的かつ光学的評価が追い付いていない。次年度は、シリコンナノドットの形成を示す構造的かつ光学的評価を中心に行う。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、電気的特性からはコンセプト通りの酸化シリコン(SiOx)膜中にシリコンナノ構造が形成されたことを示唆する結果を得ることができたが、まだシリコンナノドットが形成されていることを示す証拠となる構造的かつ光学的評価ができていない。今後は、シリコンナノドットの形成を示す構造的かつ光学的評価を中心に行う。具体的には、表面敏感な紫外ラマン分光法によるアモルファスシリコンと結晶シリコンのピーク強度から求める結晶化率の評価を行う。さらに、分光エリプソメトリーを用いた、熱処理によるアモルファスシリコンから結晶シリコンへ変化した際の誘電関数の変化を評価することにより、シリコンナノ構造の形成を支持する証拠の獲得を行う。また、良好な電気的特性を得ることができたため、実際に太陽電池に実装し、まだ変化させていないパラメータの最適化を行いつつ、高い導電性と保護性能を両立したSiOx膜のさらなる高性能化を目指す。
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