研究課題/領域番号 |
18H05957
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田部 亜季 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (60786367)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 抗体-薬物複合体 / ドラッグデリバリー / ファージディスプレイ / 抗体工学 / CADM1 / 成人T細胞性白血病/リンパ腫 / チオストレオプトン |
研究実績の概要 |
2018年度は、ヒト可変領域のフレ ームワークを骨格とした、単鎖抗体(scFv) の人工合成ライブラリーであるTomlinsonライブラリーを用いたphage display法で抗CADM1抗体の取得を試みた。CADM1の細胞外ドメインを抗原としてパニングを行い、scFvIとscFvJの2つのヒットクローンを取得した。得られたヒットクローンからscFv、humanFab、humanIgG1抗体を作製した。CADM1を発現するHTLV-1感染不死化細胞株(MT2、HUT102)と成人T細胞白血病細胞株(TLom1、ATN1)への結合をフローサイトメトリー(FACS)を用いて評価した。2種のヒットクローンのうち、scFvJのクローンで結合を確認した。scFvとFabではMT2とATN1に結合を認め、IgGでは4種全ての細胞へ結合を認めた。IgGのavidity効果と考え、結合親和性が既存の抗CADM1 IgY抗体と比較してscFvJのヒットクローンでは弱い可能性が示唆された。FabとIgGについて、示査走査熱量計(DSC)を用いた抗体の熱安定性や、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた抗原との相互作用解析を行った。FOXM1阻害剤であるチオストレプトン(TS)を化学修飾するための条件検討として、 システインのチオールに反応性を有するマレイミド基を持つAlexa488を抗CADM1 FabとIgGに修飾し、CADM1陽性細胞株への結合をFACSで確認した。以上からFabとIgGにシステインを介した化学修飾が可能であり、細胞への結合活性を保持していることが確認された。またDSCでの熱安定性評価では(Tm=74.7℃)と比較的高い熱安定性を保持していたが、SPRによる結合親和性はFab(KD=475nM)、IgG(KD=82.3 nM)であり、親和性の改善が今後の課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CADM1は種間の相同性が高く、通常のマウスなどの動物を免疫してモノクローナル抗体を作製することが困難とされている。そのため、これまでにchicken IgYなどの抗体が研究に使用されてきた経緯がある。本研究では、取得が困難とされる抗CADM1抗体をヒト可変領域のフレームワークを骨格とした、単鎖抗体(scFv) の人工合成ライブラリーであるTomlinsonライブラリーを用いたphage display法で取得することに成功し、scFvを基に、humanFab、humanIgGなどの発現精製にも成功している。また、得られたhumanFab、humanIgGのチオール基に化学修飾の実験モデルとして蛍光修飾を行うことが可能であり、修飾後もCADM1陽性細胞への結合活性を保持していることを確認している。この成果をもとに、FOXM1阻害剤であるチオストレプトン(TS)の化学修飾と、細胞への活性評価へと進めることが可能であるため。
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今後の研究の推進方策 |
今回、得られたscFvJのクローンは熱安定性に優れ、FabやIgG内部のシステインのチオール基に対する蛍光色素などの化学修飾が可能であり、CADM1陽性細胞株への結合活性を化学修飾後も保持していることが明らかとなっている。しかしながら結合親和性が十分ではなく、今後は親和性向上に課題が残されている。HDX-MSを用いたCADM1と抗体のエピトープマッピングや共結晶などの取得を試み、構造情報から計算学的手法を用いた結合親和性改善を目的とした変異体作製を検討している。 また並行して、今回得られたヒットクローンにFOXM1の阻害剤であるチオストレプトン(TS)の化学修飾を試みる。TSはチオール反応性の構造を内部に有しており、マイケル付加反応によってシステインと反応することが報告されているが、疎水性が高く、難容性であることから抗体との反応条件検討が今後の課題であり、界面活性剤やアルギニンなどの凝集抑制剤などを用いた溶媒条件について検討を行う。
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