これまで、我々秋田県産業技術センターでは、電界を用いることで、撹拌子などを用いずに非接触で液滴を3次元的に撹拌する技術である、電界撹拌技術の開発を行ってきた。本技術はこれまでに、がん手術における術中診断用免疫染色法に応用され、その診断をするための時間の大幅な短縮を可能とし、術後の生活の質の向上に貢献してきた。 本研究では、これまでDNAなどの細胞への導入に用いられてきた、ごく短時間の電気刺激を細胞に与えることにより細胞膜に微細な穿孔をし、外部の物質を導入する方法である電気穿孔法(エレクトロポレーション)と、これまで開発してきた電界撹拌技術を組み合わせることで、新たな高効率細胞導入法の技術確立を行うことを目的としている。この手法は、電界撹拌により細胞とターゲット物質の混和によって凝集体を分散し、直後にマイルドな電気刺激を細胞に施すことで、新たな低刺激導入法が得られることが期待される。 また本研究により確立される新規導入法は、これまでのコストや、安全面などの様々な問題をクリアする画期的なシステムになることも期待される。 現在までに、上記の新規遺伝子導入法を確立するため、ヒトの女性由来の培養細胞であるHeLa細胞を用いて、細胞の生状態で核内のDNAを染色することが可能である微小物質Hoechst33342を用いて、HeLa細胞への微小物質の取り込み効率が電界撹拌の有無により変化するか否かの検討を行なった。この検討の結果、電界撹拌をHeLa細胞のHoechst33342染色に用いることで2倍程度の速さでDNAが染色されることが分かり、細胞への微小物質の取り込み効率が上昇することが示唆された。 以上の結果から、電界撹拌を生細胞への物質導入時に用いることで、拡散により細胞中に導入され得るHoechst33342などの微小物質については、その細胞への取り込み効率が著しく向上することが分かった。
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