本研究では,脳波を非線形振動子と見做し,外部刺激による応答を検出することで,脳内の同期現象の起こりやすさを検証することを目的としている.そのために,経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation:TMS)を与えている頭皮脳波データを対象に刺激による脳波位相の変化を推定する手法の提案と検証を実施した. 昨年度は,TMSを与えている脳波データを対象に刺激による脳波位相の変化を検出する手法の構築と検証を実施した.この手法は刺激前後のデータから自己回帰モデルを用いて刺激直後の脳波を予測し,刺激による脳波位相の変化を検出する手法であった.しかしながら,昨年度の段階では実データに適用するには予測精度が不安定であり,これを改良する必要があった. 本年度では,昨年度の提案手法にカルマンフィルタを導入し,さらに手法全体を見直すことにより,予測精度の向上を試みた.この予測精度を検証するために,TMSを与えていない安静時の脳波データを用いて脳波そのものがどの程度予測可能なのか,どのような状況下で予測可能なのかを検証した.この内容は現在論文としてまとめている最中である. また,TMSを与えている脳波データにも再度適用を試みた.結果,磁気刺激によるアーチファクトの影響を受けずに,位相の変化を推定できることを確認した.
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