研究課題/領域番号 |
18H05970
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鳥海 尚之 東京工業大学, 理学院, 特任助教 (70827659)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | イオン性分子 / 光反応 / 遷移金属触媒 / π共役系 |
研究実績の概要 |
本研究では、光エネルギーを利用して高活性な遷移金属種を発生させるべく、電荷を持つイオン性のπ共役系配位子を有する金属錯体を合成し、光励起により高度に酸化・還元された金属中心を創出することによって、不活性な結合や分子の化学変換を実現できる新たな光触媒反応を開発することを目標としている。 本年度は、電子不足なカチオン性配位子の設計・合成および遷移金属との錯体形成、光触媒反応の検討を行った。具体的には窒素原子を有する二座配位子であるフェナントロリンに注目し、π共役系を有するカチオン性部位としてピリジニウムを連結した分子を設計した。これらの新規カチオン性配位子は、市販のフェナントロリンから3工程で良好な収率で合成でき、さらに2価のパラジウムやニッケルと可視領域に吸収を有する安定な錯体を形成することが各種分光測定により示唆された。このカチオン性錯体を用いることで、触媒的C-H官能基化反応が光照射により達成できるのではないかと考えた。例えば電子不足な2価のパラジウム触媒存在下、加熱条件でベンゼンの直截アセトキシ化反応が報告されていることから、同様の反応をカチオン性光触媒を用いて温和な条件で実現するべく検討を行った。しかし、青色光、紫外光照射条件ともに所望の反応の進行は確認できなかった。これは、カチオン性部位であるピリジニウムの酸化力が不十分で、パラジウム金属中心から配位子への光電子移動が起こっておらず、光照射により触媒を活性化できていないことが原因と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電荷を持つ新規のカチオン性π共役系配位子の合成を達成し、可視領域に吸収を有する遷移金属錯体の形成も可能であることを示すことができた。イオン性の有機分子はその合成・精製が困難であることも多いため、まず実際に配位子を創製できたのは一つの成果と考えている。最終目標である具体的な光触媒反応の達成には至っていないが、初年度としては十分な進捗状況と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、光を利活用できる高活性な遷移金属触媒を創製することを目指す。カチオン性部位としてピリジニウムより共役長が大きく光酸化力も強いアクリジニウムを用い、配位部位としてホスフィンやビピリジン、フェナントロリンを有する配位子の合成に取り組みたい。また、アニオン性のπ共役分子は一般的に酸化に不安定であり合成することが難しいとされるが、計算化学的手法を用いて安定な構造を精査するとともに引き続き実際の合成に取り組む。これらの配位子の合成を完了し次第、順次、銅、パラジウム、ロジウムなど種々の遷移金属を錯形成させ光物性を調査する。すなわち、吸収発光、CVなど各種分光法と計算化学を用いて得られたイオン性錯体の物理化学的特性の解析を進める。さらに得られた錯体を用いて光触媒としての種々の反応への適用性を精査する。例えばカチオン性光触媒を用いた場合には、配向基なしには一般的に困難とされる単純アルカンのC-H活性化がCMD機構により温和な可視光照射条件で実現可能と考えている。また、アニオン性の光触媒を用いれば酸化的付加が促進されると予想できることから、C-C結合の活性化や窒素固定など幅広く検討を行い、これまで困難とされてきたさまざまな反応開発に挑戦したい。金属・配位子・カウンターイオンの組み合わせは無数にあることから、イオン性錯体ならではの特性・反応性を見出すことができると考えている。
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