前年度に引き続き、可視光照射のみで移動(負の走光性)を示す4-メチルアミノアゾベンゼンの結晶を用いて、種々の条件において光照射した場合の挙動について検討し、当初の目的であったナノ材料運搬を試みた。 結晶は青色単色光を照射した場合に顕著に移動を示す一方で、擬似太陽光源を用いて太陽光と同スペクトルの白色光を照射した場合においても移動が観測された(論文発表)。光に対して、より高感度に応答する結晶であれば太陽光下でも移動が可能になると期待される。親水、疎水処理したガラス基板上で光照射した場合の挙動を観測したところ、親水基板上では疎水基板上よりも結晶が移動しにくくなることから、結晶の挙動は基板との相互作用に大きく左右されることも判明した。また、結晶の融点と分子の光異性化の熱戻り速さが移動に重要であることから、他のアミノアゾベンゼン系の結晶についても検討した。4-(ジメチルアミノ)-2-メチルアゾベンゼンについても単色光照射による結晶移動が観測されたことから、光誘起結晶移動が一般性のある現象であることが示された。結晶に蛍光性量子ドットを混ぜ込み、光照射によって結晶と一緒に移動させることにも成功し、ナノ材料運搬が可能であることを示した。運搬後の結晶をメタノール等の溶剤で除去することで、運搬されたナノ材料のみを基板上に残すことも可能となった。また、運搬の過程で量子ドットの発光の明るさが増減する様子が観測された。これは運動する結晶の中で基板に近い底面側と、基板から離れた上面側を量子ドットが上下しながら運搬されていることを示している。光で融解した結晶の内部で熱と表面張力の勾配による対流が生じており、この対流が移動現象の駆動力になっていることを示唆している。本研究成果は、いまだ不明な部分の多い光誘起結晶移動現象の機構解明に大きく寄与するものであり、今後さらなる研究の発展が期待される。
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