ウイルスがイネいもち病菌において産生を誘導する化合物を単離し,カビ毒テヌアゾン酸と同定した。テヌアゾン酸は複数の植物病原菌から報告されている毒素である。過去に薬剤の添加や遺伝子操作によりイネいもち病のテヌアゾン酸産生が誘導されることが示されているが,本研究では内在性因子による産生誘導を初めて明らかにした。次に,ウイルスを除いたいもち病菌に対して再びウイルスを感染させる再感染実験によって,トティウイルスと呼ばれるウイルスが毒素産生を誘導することを明らかにした。さらに,トティウイルスがテヌアゾン酸の生合成に関係する遺伝子の発現に与える影響を調べたところ,ウイルスが転写因子の活性化を通して,テヌアゾン酸の生合成遺伝子の転写を促進することが示唆された。本研究は,世界で初めて,ウイルスが糸状菌の二次代謝を活性化する機構を転写レベルで明らかにした。また,ウイルスがイネいもち病菌の二次代謝関連遺伝子の発現に与える影響を網羅的に解析したところ,テヌアゾン酸合成酵素をコードする遺伝子とは異なる2つの二次代謝産物の生合成遺伝子の発現を抑制することが示唆された。 一部のウイルスは,菌糸融合,プロトプラスト融合,およびエレクトロポレーション等によって糸状菌に感染可能である。また,ウイルス感染は遺伝子組換えとはみなされないため,ウイルス感染株は遺伝子組換え株とは異なり取扱いが容易である。従って,ウイルスが二次代謝誘導因子として物質探索や物質産生等に応用されることが期待される。
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