本研究では,大腸菌およびサルモネラに感染するバクテリオファージEscoHU1の性状,感染機構,微生物制御剤としての有効性について研究を行なった。令和元年度は食品でのEscoHU1の殺菌力の評価を中心に実験を行なった。食品サンプルには牛乳および牛肉を使用した。牛乳および牛肉に,大腸菌(Escherichia coli O157:H7)またはサルモネラ(Salmonella enterica serovar Typhimurium)を5 log CFU/mL or cm2 となるように接種し,バクテリオファージEscoHU1を約9 log CFU/mL or cm2 となるように接種後,経時的に生菌数を測定した。その結果,サルモネラよりも大腸菌の方がより大きな生菌数の減少を期待できることが明らかとなった。これは,前年度に明らかとした,バクテリオファージEscoHU1の宿主細胞への吸着速度の差が関与していると推察された。 前年度の研究から,バクテリオファージEscoHU1はSiphoviridae科に属するファージであることが明らかとなっている。ゲノムシーケンス解析から,EscoHU1はゲノムの両末端に約10 kbp のdirect terminal repeat構造を持つことが明らかとなり,T5ファージが含まれるSiphoviridae科Tequintavirus属に属することが示唆された。また,ORFのアノテーションおよび既知ファージとの比較から,EscoHU1の宿主表面への吸着に重要なレセプター結合タンパク質と考えられる遺伝子を推定した。 以上より,本研究では大腸菌およびサルモネラに感染するバクテリオファージEscoHU1の性状およびゲノム解析を行い,食品における微生物制御に有用なファージとなる可能性を示すことができた。
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