本研究は、モザンビークティラピア(Oreochromis mossambicus)をモデルとして、危険回避シグナルである警報フェロモンの単離を目指すとともに、その作用機序と生理機能の解析に取り組んだ。本年度は主に作用機序の解明にフォーカスして研究を進めた。重複制限により中途辞退を行うまでのおよそ半年の間に、以下の成果を得た。 モザンビークティラピアの稚魚を対象とした行動実験システムを確立することで、実際にモザンビークティラピアが警報フェロモンに反応することを明らかにした。続いてPAS染色により、他魚種と同様にモザンビークティラピアの体表においても、警報フェロモン貯蔵細胞(club cell)と考えられる細胞が存在することを確認した。さらに、走査型電子顕微鏡を用いた外部形態観察や、組織切片による観察を通して、モザンビークティラピアの嗅上皮の基礎的な情報を得た。並行して、神経興奮マーカーであるc-fosのクローニングを行うとともに、in situ hybridization用のプローブを作製した。そしてこれを用いて、警報フェロモンに曝露したモザンビークティラピアの嗅上皮の組織切片を、コントロール群のものと比較しながら観察したところ、警報フェロモン曝露群においてのみ、強く興奮する細胞を確認することができた。この細胞が警報フェロモンの受容に関与していると考えられる。これら一連の研究により、モザンビークティラピアにおける警報フェロモンの作用系の一端を明らかにすることができた。
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