研究課題/領域番号 |
19K21166
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真方 文絵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (50635208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症性子宮疾患 / リポポリサッカライド / 肝機能障害 / ケトン体 / 遊離脂肪酸 / 卵母細胞 / 顆粒層細胞 |
研究実績の概要 |
乳牛において,子宮への細菌感染によって引き起こされる炎症性子宮疾患は繁殖障害の主要因となる。炎症性子宮疾患に罹患した乳牛では,感染細菌が産生する毒素であるリポポリサッカライド (LPS) が卵巣内の卵胞に移行し,卵巣機能障害を引き起こすことが示唆されている。本研究では,LPS代謝の主たる器官である肝臓に着目し,肝機能障害が炎症性子宮疾患の病態とLPS代謝におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。2020年度は,卵巣機能におよぼす肝機能障害とLPSとの相互作用について以下の成果を得た。 1)食肉処理場で採取した乳牛の卵巣を用い,卵胞内の微小環境におよぼす肝機能障害の影響を検証した。LPS濃度が高い卵胞では,肝臓で合成され,LPSによる炎症反応の調節およびLPSの無毒化に関わるLPS結合タンパクの濃度低下が認められた。また,肝機能の低下に関連して産生される遊離脂肪酸およびケトン体の濃度が高い卵胞では,顆粒層細胞における腫瘍壊死因子αの遺伝子発現が増加していた。以上から,肝機能の低下によってLPSの代謝調節機構が変化するとともに,卵胞局所における炎症反応が誘起される可能性を示した。さらに,乳牛の卵母細胞および顆粒層細胞は遊離脂肪酸およびケトン体の受容体遺伝子を発現しており,肝機能の低下にともなう卵胞内微小環境の変化を感知する機構を備えている可能性を示した。 2)成熟雌ラットに16週間の高脂肪食給与を行い,肥満および高ケトン体血症を特徴とする肝機能低下モデルラットを得た。これらのラットにLPSを投与したところ,肝機能障害を反映するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアラニンアミノトランスフェラーゼの血中濃度が急激に上昇し,急性の肝機能障害が誘起されることを確認した。一方で,通常食給与ラットと比較して,LPS投与により誘起される肝機能障害の程度に違いは認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳牛において,肝機能の低下によって卵胞内でのLPSの代謝調節機構が変化するとともに,顆粒層細胞における炎症反応が誘起される可能性を示した。さらに,乳牛の卵母細胞および顆粒層細胞は肝機能の低下にともなう卵胞内微小環境の変化を感知するための受容体遺伝子を発現していることを明らかにした。生殖機能におよぼす肝機能障害とLPSとの相互作用について詳細に検証するための生体モデルとして,肝機能低下ラットを作出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
肝機能の低下にともなう卵胞内微小環境の変化が卵母細胞におよぼす影響を明らかにするため,乳牛の生体内において遊離脂肪酸およびケトン体の曝露を受けながら発育した卵母細胞の胚発生能を検証する。また,低栄養に続発する肝機能障害を呈した乳牛からの効率的な体外受精卵作出技術の確立を目指す。さらに,2020年度に作出した肝機能低下モデルラットにLPSを投与し,血中からの消失速度を検証することで,LPSの代謝におよぼす肝機能障害の影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて2020年4-5月は研究機関が閉鎖となり,一切の研究活動を行うことができなかった。これにより当初の計画通りに実施できなかった研究が生じたために次年度使用額が発生した。次年度使用額は,2020年度に実施できなかった解析に使用する予定である。
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