研究課題/領域番号 |
18H06030
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森田 康広 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(農), 特任助教 (90818262)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 暑熱ストレス / 卵巣温度 / ウシ |
研究実績の概要 |
本研究では暑熱環境下での雌生殖器の温度維持機序を解明し、世界における暑熱期や暑熱ストレス環境下の繁殖性および畜産生産性の改善に寄与することを目的としている。人医療でストレス評価に利用される心拍変動解析から得られる暑熱ストレス評価値を指標として、生殖器周囲の温度勾配が性周期を通してどのように変化するのか、性周期のどの時期に暑熱ストレスの影響により温度勾配が破綻しやすいのかを明らかにし、また、生殖器周囲の温度勾配と卵胞発育不全、排卵不全との関係を解明する。 本年度はデータ収集に重要な実験の方法について、確立を目指した。雌において報告がある生殖器周囲の温度勾配(直腸温、子宮温、卵巣温、卵胞温の順に温度が低い)を長期間モニタリングできる手法と、心拍の変動から環境ストレスを定量する方法について検討し、今後の研究に使用可能な方法を確立した。具体的には以下の2つの方法を確立した。 1:膣切開法と左ケン部切開法を併用した針金型温度プローブの腹腔内臓器留置法。 2:ホルター心電計を使用した心拍変動解析による環境ストレスの評価法。 上記の実験手法1を使用し、牛における黄体期の膣、子宮、卵巣には黄体期を通して温度勾配が維持されていること、また、体温と同調した日中に高く夜に低く推移する日内の温度変化を示すことを確認した。また、実験手法2を使用し、環境ストレス評価について、心拍変動解析の分類にクラスター解析を用いることにより同一環境下でも個体により心拍変動の時系列変化が異なることを示した。ストレス環境下ではどの個体も同じような変化パターンを示す可能性が示された。このことは、客観的に個体のストレス量を区別できる可能性を示している。本方法は初めて牛で継時的に卵巣実質の温度を長期間記録する方法であり、今後の研究に大きく寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでの国内外の報告から想定される以下の仮説について検証を行っている。1:生殖器の温度勾配は血流量の関係から卵胞が急速に大きくなる卵胞期に大きく、黄体期に小さい。2:外気温の影響を受け、生殖器温度の日内変化が存在する。3:卵胞発育不全の個体はこの温度勾配が性周期を通して小さく、排卵不全の個体は主席卵胞発育時からこの温度勾配が正常個体よりも小さい。4:心拍変動解析による暑熱ストレスと生殖器の温度勾配は負に相関する。このうち、本年度では上記の仮説を検討するための実験方法の確立を行なった。具体的には以下である、 1:膣切開法と左ケン部切開法を併用した温度計の腹腔内臓器留置法。当初は膣切開のみでの留置方法を検討したが、卵巣にピンポイントに設置できなかったことから、最終的には左ケン部切開法を併用した。この方法では、センサーを使用したこれまでの腹腔温度のモニタリングとは異なり卵巣、子宮などの臓器にピンポイントに針金型温度プローブを設置することで、個別かつ同時に各臓器の温度情報を生体から得られることを示した。また、侵襲性についても確認し、子宮については目立った異常が見られず、対側卵巣は正常な卵巣活動が観察でき、また温度計を設置した卵巣も温度プローブを取り外した後は正常な卵巣活動が確認できた。 2:ホルター心電計を使用した心拍変動解析による環境ストレスの評価法。牛における心拍変動解析を検討し、その中でも周波数解析の時系列変化のパターンが暑熱環境下において個体間で差がある可能性を示している。この結果は本方法が同一環境下で各個体のストレスを客観的に検討できることを示しており、今後の客観的なストレス評価につながると考えられる。 以上より実験手法についての検討は順調に終了していることから概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で確立した長期に卵巣温度を記録する方法を用いて、膣、子宮、卵巣の温度を21日の性周期を通して経時的に観察することで、卵胞期または黄体期における生殖器の温度勾配の変化を観察する。同時に卵巣、子宮の状態を超音波画像診断装置で観察し、カラードップラー法を用いて血流の測定を行う。 次年度は日本だけでなく、名古屋大学カンボジアサテライトキャンパス附属農場の乳用種と肉用種についても卵胞期、黄体期における卵巣、子宮の温度、血流の検討を行う。このことによって、日本では観察できない持続的な暑熱環境下での卵巣、子宮の温度変化、血流の変化を観察し、個体間の差異を検討する。 <実験1:21日の性周期を通した卵巣動態と生殖器の温度勾配の測定> ・卵巣動態を経直腸超音波検査により観察する、同時にカラードップラー法を用いて血流の検討を行う。生殖器の温度勾配の測定は今年度に確立した新規法と経腟採卵針内に通した針金型温度プローブ先端を穿刺する方法を用いて行う。後者の方法では、経腟で子宮、卵巣、卵胞、黄体などの卵巣構造物の温度も合わせて測定する。直腸温、膣温は持続的に電子体温計にて測定する。本実験は暑熱環境と快適環境(春季、秋季)で行う。また、カンボジアの付属農場でも同様に検討する。 <実験2:心拍変動解析と卵胞発育、生殖器の温度勾配の測定> 前述の実験に並行して心拍変動解析をホルター心電計の記録データを使っておこなう。24時間連続して心電図を記録し、専用のプログラムにて解析を行う。カンボジア、日本でそれぞれ行い、各環境におけるストレス感受性について環境の違い、品種間の違いを検討する。以上の計画で、本課題の研究を進めていく。
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