本研究では、肉用鶏と採卵鶏におけるパネート細胞の機能の比較と、腸幹細胞を活性化するWntまたは代替となる成長因子の同定を目的としている。前年度では、肉用鶏のパネート細胞がWnt3を発現し、採卵鶏では発現されないと予想し、PCRを行ったところ、肉用鶏、採卵鶏共にWnt3の発現が認められなかった。Wnt3の代替として筋線維芽細胞(MyoFb)からWnt2bが分泌され、さらにMyoFbからR-spondins、Noggin、Wnt5aが分泌されていることが報告されている。そこで、今年度は上記のWntシグナルに関与するサイトカインをターゲットとしたRT-qPCRを行うと同時に肉用鶏と採卵鶏の比較を行った。その結果、全てのサイトカインの発現が認められたものの、両者間に有意な差は認められなかった。次に、Wnt2bとWnt5aを分泌する細胞の局在を同定するため、筋線維芽細胞マーカーであるα-SMA、Wnt2bおよびWnt5aをターゲットとしてニワトリ腸管に対して免疫組織化学染色(IHC)を行った結果、マウスと異なりニワトリの小腸は筋線維芽細胞だけではなく、腸上皮細胞からもWnt2bが分泌されていることが明らかとなった。さらに大腸では、MyoFbだけではなく腸上皮細胞からもWnt5aが分泌されていることが明らかとなった。以上から、ニワトリ腸管におけるWnt/β-cateninシグナル伝達はWnt3ではなくWnt2bにより行われていることが示唆された。次に、Wnt2bの作用機序を解明するため、ニワトリWnt2bのリコンビナントタンパク質の合成を試みた。Chicken Wnt2bのDNAをpCAGGSベクターにライゲーション後、HEK293T細胞へPEIによりトランスフェクションし、Wnt2b過剰発現細胞の作出を試みたが、Westernblotの結果、培養上清中への分泌が認められなかった。
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