研究課題
本研究は、『イヌの細菌叢に影響を与える宿主の遺伝子を解明し、細菌叢変化と疾患の因果関係解明に繋がる基礎データを作成する』ことを目的としている。生体の細菌叢の構成異常は宿主の様々な疾患と関連している。細菌叢は疾患で変化する一方、細菌叢の変化が疾患を引き起こすこともあり、細菌叢変化と疾患の因果関係の解釈は容易ではない。近年、細菌叢は宿主の遺伝子で変化することが明らかとなり、細菌叢解析における宿主の遺伝子情報の重要性が認識されている。本研究では、純血種犬の遺伝子と細菌叢を解析することで、細菌叢に影響を与える遺伝子と同定する。イヌの細菌叢変化と疾患との関係は様々な疾患において調べられているものの、一般的な性質との関係性はほとんど調べられていない。一般性質で細菌叢が変化するということは、その変化には遺伝的素因は直接的に関与していないため、その変化は遺伝子と細菌の関連性を調べる際に交絡因子となると考えられる。そこで、平成30年度は性別や年齢によってイヌの腸内細菌叢が変化するか調べた。まず、同一環境下の柴犬53頭から糞便を採取し、嫌気性状態で保管後、細菌のDNAを抽出した。次に、抽出DNAを用いて細菌の16S rRNA遺伝子の可変領域の配列を高速シーケンサーによって解読し、得られた配列情報を細菌叢解析に使用した。餌の影響を除外するため、解析には同一の餌が与えられていた43頭のみを使用した。性別と腸内細菌叢の解析では、細菌叢の個体ごとの多様性や個体間の群集構造の違い、特定の細菌の量に対する性別の影響は認められなかった。一方、年齢と腸内細菌叢の解析では、細菌叢の多様性が加齢に伴い変化することを明らかにした。また、加齢と共に有意に増加する細菌が存在した。さらに、ネットワークを構成する細菌群を同定し、年齢と有意に相関する細菌群を同定した。これら研究成果は現在、国際学術誌に投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は当初の計画通り、同一環境下で飼育されている柴犬群から糞便と口腔スワブを採取し、細菌のDNAを抽出後、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域のアンプリコンシーケンスを行った。また、同一個体から採取した血液検体から、宿主(イヌ)のゲノム DNA を抽出し、イルミナ社のマクロアレイチップを用いて17万個の一塩基多型(SNP)の遺伝子型を決定した。上記の腸内細菌叢データと採材したイヌの一般性質の関連性を調べたところ、年齢と種々の細菌叢パラメーターの間に有意な相関が認められたため、その内容をまとめて国際学術誌に投稿し、現在審査中である。また、上記と同様の手法を用いて柴犬とは異なる14頭の純血種犬の糞便および口腔スワブを採取し、細菌のDNA抽出および16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンスを実施した。また、同一個体より採取した血液から宿主のDNAも抽出し、柴犬において使用したマイクロアレイチップと同じチップを用いて17万個のSNPの遺伝子型を決定した。上記のように、本研究は概ね当初想定していた計画通り進捗している。
平成30年度は細菌叢解析に必要な各種試料およびデータを収集し、本研究の主目的である細菌叢に影響を与える遺伝子を探索する際に必要な基礎データを作成した。そのため、平成31年度(令和元年度)はこれらを用いて、各種細菌叢データと有意に相関する一塩基多型(SNP)の同定を試みる。具体的には、柴犬の腸内細菌叢と口腔細菌叢の個体ごと多様性の指標、個体間の群集構造の違いの指標および各細菌の菌量と関連性の高い宿主のSNPを、ゲノムワイド関連解析によって検出する。この際、一般的に細菌叢に影響を与えるとされている餌の種類と本研究にて腸内細菌叢に影響を与えることが明らかとなった年齢の二つの指標を共変量として使用する。また、各細菌叢の個体間の群集構造の違いとIBSの間に相関があるかも調べる。柴犬において高い関連性が示された細菌に関しては、別犬種で採取した細菌叢データとマイクロアレイからの宿主のSNPデータを用いて再現性を確認する。別犬種において関連性が再現されたSNPに関してはハプロタイプの分析を行い、関連遺伝子の同定を試みる。関連遺伝子が同定された場合はサンガーシーケンスによるコード領域の配列解析を行い、アミノ酸置換等の具体的な原因因子を探索する。これらによって得られた研究成果は学術集会において発表すると同時に、国際学術誌に論文投稿する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
Viruses
巻: 10 ページ: 552~552
10.3390/v10100552
Archives of Virology
巻: 163 ページ: 1941~1948
10.1007/s00705-018-3811-0