研究課題/領域番号 |
18H06044
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鯨井 智也 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (70823566)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | クロマチン / DEK / クライオ電子顕微鏡 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
ヒトをはじめとする真核生物のゲノムDNAは、クロマチン構造を形成して細胞核内に収納されている。クロマチンは様々な因子が結合することで、緩んだ構造や、凝縮した構造にダイナミックに変化する。この構造変化によって、ゲノムDNAとDNAの機能発現を担う因子との相互作用が調節されることで、遺伝子の発現、DNAの修復、複製などが制御されている。そのため、クロマチンの構造を規定する因子が、細胞の複雑かつ多様な生理機能を実現する上で非常に重要である。本研究では、クロマチンの構成因子DEKによるクロマチン構造制御機構の解明を目的としている。 DEKは、癌やリウマチ関節炎に関与することが知られており、細胞核内にユビキタスに存在してヘテロクロマチンの形成に関与することがわかっているが、クロマチン構造に与える影響については不明である。そこで、本研究では、DEKとクロマチンの相互作用解析を行っている。まず、DEKをリコンビナントタンパク質として精製する系を確立した。DEKにより形成されるクロマチン構造の解明のため、精製したDEKとクロマチンとの複合体を形成させ、電子顕微鏡観察によりその立体構造解析を進めた。具体的には、クライオ電子顕微鏡による解析のために、凍結試料の作製条件を詳細に検討した結果、良質な凍結グリッドを作製することに成功した。クライオ電子顕微鏡により、単粒子解析を行った結果、DEKとクロマチン複合体の立体構造を決定することに成功し、DEKの特徴的なクロマチン結合機構が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、研究計画に基づき、DEKとクロマチンの複合体の立体構造解析を推進した。まず、DEKとクロマチンの複合体の再構成に成功した。複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡解析によって解析するために、スクロースと架橋剤の密度勾配遠心分離による精製法GraFixを用いて複合体を安定化して精製する系を確立した。試料の濃度、架橋剤の濃度や、複合体の凍結条件(Blot timeやBlotforceなど)を詳細に検討した結果、良質な凍結試料を作製することに成功した。この凍結試料について、クライオ電子顕微鏡Titan Kriosを用いて3000枚程度の顕微鏡写真を収集し、単粒子解析を行った結果、DEKとクロマチンの立体構造を決定することに成功した。その結果、DEKの特徴的なクロマチン結合機構が明らかになり、DEKによるクロマチン構造制御に関する重要な知見が得られた。DEKとクロマチンの立体構造決定は、本研究を進める上で非常に大きな進展であったと言える。しかし同時に、構造解析の結果から、クロマチンに結合したDEKの構造はフレキシブルなものであり、複合体中でDEKの構造の分解能が低いことが明らかになった。その結果として、DEKとクロマチンの複合体の原子モデルの構築にはさらなる詳細な構造情報と、生化学的解析が必要であると考えられた。そのため、DEKのクロマチン結合ドメインをリコンビナントタンパク質として精製し、X線結晶構造解析を試みている。現在までに、タンパク質の精製に成功し、結晶化条件のスクリーニングをロボットを用いて大規模に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、まずDEKとクロマチン複合体の原子モデルの構築を行う。そのために、DEKのクロマチン結合ドメインの立体構造を、X線結晶構造解析により高分解能で決定する。そのために、引き続き結晶化条件のスクリーニングを行う。良質な結晶が得られた際には、大型放射光施設SPring-8や、Photon FactoryにてX線結晶構造解析を行う予定である。さらに、DEKのクロマチン結合機構を生化学的に解析するため、架橋を用いた質量分析により相互作用解析を行う。これらの構造、生化学的情報からDEKとクロマチン複合体の原子モデルを構築する。さらに、DEKのクロマチン結合に重要なアミノ酸について変異体を作製し、クロマチンとの相互作用解析を行うことで、モデルのバリデーションも行う。 次に、DEKがクロマチンの高次構造に与える影響を解析するため、より巨大なクロマチンを再構成し、DEKと複合体を形成させ、電子顕微鏡により立体構造解析を行う。そのために、まず複合体の調製法を確立する。具体的には、GraFix法に用いるスクロース濃度や架橋剤の濃度、種類などを検討する。複合体が凍結試料作製の際に崩壊してしまう可能性を考え、クライオ電子顕微鏡による解析がうまく進行しない場合には、ネガティブ染色法による構造解析を行う。電子顕微鏡解析は、東京大学に設置されている顕微鏡を用いる予定である。
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