研究課題/領域番号 |
18H06055
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
向井 崇人 立教大学, 理学部, 助教 (40612114)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 合成生物学 / tRNA / allo-tRNA |
研究実績の概要 |
本研究課題最大の課題は、allo-tRNAがバクテリア型Seryl-tRNA synthetase(SerRS)にセリンをチャージされないように、allo-tRNAの配列と構造を改変することである。自然界から見つかったallo-tRNA種の多くは大腸菌SerRSに強く認識されるため、allo-tRNAの内部に、大腸菌SerRSに対して立体障害を起こすようなアンチ・ディターミナントを導入する必要がある。ところが現在まで報告されているアンチ・ディターミナントをいくつ導入しても、大腸菌SerRSとの結合を十分には阻害できなかった。 研究代表者が当該年度に発表した関連論文(Recoding of the selenocysteine UGA codon by cysteine in the presence of a non-canonical tRNACys and elongation factor SelB)の研究結果によって、自然界からヒントが得られた。バクテリアSerRSは様々な形の多様な塩基配列のtRNAを認識しているようであり、例えばtRNAReUと名付けた特殊tRNAもセリン化できることが分かった。tRNAReCと名付けた特殊なシステインtRNAには様々な位置にバルジ構造が見られ、これがSerRSの排除に役立っている可能性が示唆された。 そこで根本的な解決を目指し、allo-tRNAにもっと大きな立体障碍であるバルジ構造やループ構造を導入してSerRSを完全に排除する方向性に転換した。多様なバルジ構造やループ構造を試して確実な知見を得るために、100種類程度のallo-tRNA変異体をデザインし、全てをクローニングして試す方針を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
tRNA改変の元となるallo-tRNAはいずれも、立体構造的に大腸菌のセリルtRNA合成酵素(SerRS)の基質となりやすく、塩基配列を変異させるだけではSerRSとの相互作用を完全には阻害できないことが分かった。従って、局所的にバルジ構造やループ構造を導入し、立体障碍によってSerRSを排除しようと考えている。 allo-tRNAを改変するには、ランダム変異を入れたプラスミド・ライブラリーを用意し、大腸菌を用いたスクリーニング系を開発しようと計画していた。しかし、オリゴDNAの化学合成費用が当初予想よりも遥かに安かったため、ランダム変異ではなく、変異体をデザインして1つ1つクローニングする方法に変えた。その方が質の良いデータが確実に得られるはずである。 現在は約200種類の変異体をクローニングしている最中であり、データをとるステップには達していないが、クローニングが終わればスクリーニングのステップを飛ばせるため、遅れを取り戻せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
allo-tRNAのV-アームの基部に1-3塩基のバルジ構造を導入した変異体を100種類近くデザインした。それぞれの変異体がtRNAとしての機能と構造を維持していることを確認できるように、それぞれの変異体に対して、アラニンがチャージされるような変異体も設計した。既に50種類ほど発現系を構築したので、速やかに残りの発現系を構築し、約200種類のallo-tRNA変異体についてそれぞれ、セリンあるいはアラニンの導入活性を大腸菌を用いて評価する。評価系として、クロラムフェニコール耐性遺伝子のSer146のコドンをUAG(アンバー)ストップコドンに変え、allo-tRNAをアンバーサプレッサーにすることで、大腸菌のクロラムフェニコール耐性の強さからUAGコドンの翻訳活性を見積もることができる。 約100種類のallo-tRNA変異体ペアのうち、アラニン型のアラニン導入活性が十分に高く、非アラニン型のセリン導入活性が非常に低いものを選択する。更に非アラニン型の変異体に既知のSerRSアンチ・ディターミナントを導入して、セリンがチャージされなくなれば、基本フレームの完成となる。 次はこの基本フレームのアラニン型に対して、V-アームの先に様々なRNA構造(TAR、MS2ヘアピン、SECIS等)を移植し、認識タンパク質の存在下でtRNA機能の抑制が起きるか調べる。十分な機能抑制が起きれば、立体構造タグの完成となる。更に、大腸菌内在性のアラニンとセリンtRNAのいくつかを、立体構造タグ付きのallo-tRNAに置換し、対応するアラニンとセリンのコドンの翻訳活性が制御可能となるか検証する。 最後に、アラニンとセリン以外のアミノ酸にも対応できるように、様々なアミノアシル合成酵素に対するディターミナントを移植して試す。
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