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2018 年度 実績報告書

乳がんの再発に関与する核内ノンコーディングRNAを介した新しい転写制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18H06059
配分区分補助金
研究機関公益財団法人がん研究会

研究代表者

市川 雄一  公益財団法人がん研究会, がん研究所 がん生物部, 研究員 (20632160)

研究期間 (年度) 2018-08-24 – 2020-03-31
キーワードノンコーディングRNA / クロマチン / ER陽性乳がん / ESR1 / エピジェネティクス
研究実績の概要

本研究は、エレノアRNA をモデル系として、核内長鎖ノンコーディングRNAによる転写活性化機構の解明を目的とする。エレノアRNAはエストロゲンレセプター(ER)陽性乳がんにおいて高発現しており、細胞のがん化や乳がんの治療耐性化との関与が示唆されている。エレノアRNAは、細胞核内でRNA クラウドと呼ばれる集合体を形成しERの発現を活性化すると考えられているが、その詳しい分子機構は明らかになっていない。本研究によって得られる成果は、がん細胞が治療抵抗性を獲得するメカニズムの一端を明らかにするものであり、再発がんの診断や治療標的の同定につながると期待される。
本年度は、エレノアRNAとクロマチンとの相互作用に着目し研究を遂行した。ヒトER陽性乳がんのモデルであるMCF7細胞および治療耐性モデルであるLTED細胞において、エレノアRNAを標的としたChromatin Isolation by RNA Purification(ChIRP)法を行い、エレノアRNA がERをコードするESR1 遺伝子座近傍のクロマチンと相互作用することを明らかにした。また、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構にも着目し、エレノアRNA クラウドの形成を促進、または阻害する分子標的薬の探索を行った。その結果、ブロモドメインタンパク質の阻害剤JQ1によって、エレノアRNAおよびESR1の発現量が低下することを明らかにした。さらに、エレノアRNAクラウドの形成には、相分離(phase separation)と呼ばれる機構が関与していることを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、核内長鎖ノンコーディングRNAによる転写活性化機構の解明を目的として、乳がんの治療耐性化に関与するエレノアRNAの機能に着目し解析を行っている。これまでの研究から、エレノアRNAはESR1遺伝子の転写活性化に必要であると考えられているが、その詳細なメカニズムは全く明らかになっていなかった。本年度は、ChIRP-qPCR法による解析系を確立し、エレノアRNAが自身を含むESR1遺伝子座近傍のクロマチンと相互作用することを、生化学的に示すことに初めて成功した。ChIRP法はRNAと共沈降したゲノムDNAの解析だけでなく、質量分析と組み合わせることで相互作用するタンパク質の同定にも応用可能であり、この手法をエレノアRNAの解析に適用できたことは今後につながる重要な成果である。また、分子標的薬を用いた解析から、ER陽性乳がん細胞にJQ1を添加すると、エレノアRNAおよびESR1の発現量が低下することを明らかにした。さらに、エレノアRNAクラウドの形成には、相分離が関与していることを見出した。以上の結果から、エレノアRNAの機能発現にはヒストンのアセチル化とその結合因子であるブロモドメインタンパク質が関与することや、それらの因子が相分離によってクロマチン上に集積し、遺伝子の発現を活性化することが示唆された。このように、計画立案時に掲げた3つの研究目標(①エレノアRNA と相互作用する染色体領域 ②エレノアRNA との相互作用領域に特徴的に見られるエピジェネティック因子 ③エレノアRNA クラウドの形成を促進、または阻害する薬剤とその作用機序)は着実に明らかになりつつある。従って、本年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。

今後の研究の推進方策

今後は、エレノアRNAが相互作用する領域を詳細かつゲノムワイドで明らかにするために、ChIRP-Seq法による解析を行う。得られた結果を既存のデータベースと比較し、転写活性化に重要と思われる領域を絞り込む。LNAを用いてエレノアRNAをノックダウンし、絞り込んだクロマチン領域に生じるエピジェネティックな変化を、ChIP-qPCR等で解析する。エレノアRNAの相互作用領域からノンコーディングRNAが転写される場合は、ノックダウン実験を行いその作用を阻害し、エレノアRNAクラウドの形成、ESR1遺伝子の発現および細胞増殖に及ぼす影響等を解析する。すでに確立したChIRP法による解析をさらに発展させ、ChIRP-MS法を施行し、エレノアRNAと相互作用するタンパク質を同定する。候補因子については、siRNAを用いたノックダウン実験を行い、エレノアRNAの機能発現やエレノアRNAと相互作用するクロマチン領域に及ぼす影響を調べる。分子標的薬を用いた研究についても引き続き行う。エレノアRNA クラウドの形成およびESR1遺伝子の発現を促進、または阻害する薬剤を同定し、詳細な作用機序を明らかにする。上記の解析により得られた結果から、エレノアRNA クラウドとクロマチンとの相互作用を介した遺伝子発現制御機構の解明を目指す。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019 2018

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] ER陽性乳がんの治療抵抗性獲得に関与するノンコーディングRNA Eleanorの機能解析2019

    • 著者名/発表者名
      市川雄一、斉藤典子
    • 学会等名
      第36回 染色体ワークショップ 、第17回 核ダイナミクス研究会
  • [学会発表] ER陽性乳がんで高発現しているノンコーディングRNAエレノアの機能解析2018

    • 著者名/発表者名
      市川雄一、福岡恵、上野貴之、斉藤典子
    • 学会等名
      第41回日本分子生物学会年会

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公開日: 2019-12-27  

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