本研究は、エストロゲンレセプター(ER)陽性乳がんにおいて高発現しているエレノアRNAの機能解明を通して、核内長鎖ノンコーディングRNAによる転写活性化の分子基盤を明らかにすることを目的とする。エレノアRNAは、細胞核内でRNA クラウドと呼ばれる集合体を形成しERの発現を活性化すると考えられているが、その詳しい分子機構は明らかになっていない。エレノアRNAは細胞のがん化や乳がんの治療耐性化との関与が示唆されていることから、本研究によって得られる成果は、がん細胞が治療抵抗性を獲得するメカニズムの一端を明らかにするものであり、再発がんの診断や治療標的の同定につながると期待される。 これまでに、エレノアRNAとクロマチンとの相互作用に着目し研究を行い、エレノアRNAを標的としたChromatin Isolation by RNA Purification(ChIRP)法による解析系を確立した。本年度は、エレノアRNAと共沈降したゲノムDNAを次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析し、ゲノムワイドでエレノア相互作用領域を明らかにすることに成功した。また、昨年度に引き続き、エレノアRNAクラウドの形成を促進、または阻害する分子標的薬の探索を行った。その結果、mTOR阻害薬であるRapamycinや、BET阻害薬であるJQ1によって、エレノアRNAおよびESR1の発現量が低下することを明らかにした。さらに、液-液相分離(LLPS)と呼ばれる現象が、エレノアRNAクラウドの形成と維持、さらにはESR1遺伝子座の転写活性化に関与するという知見を得た。
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