研究課題/領域番号 |
18H06061
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小林 周 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60824034)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | コヒーレントX線回折イメージング / 細胞イメージング |
研究実績の概要 |
コヒーレントX線回折イメージング(Coherent X-ray diffraction imaging: CXDI)はμmサイズの非結晶試料を数十nm分解能で可視化する構造解析手法である。これまで電子顕微鏡と光学顕微鏡による可視化が困難であった空間階層領域が解析対象となるため、細胞小器官やタンパク質といったμmからnmサイズ単位の主要なコンポーネントが密に詰まった細胞の機能構造解析に適用できると期待している。CXDI実験では、高空間コヒーレントX線を試料に入射し、Fraunhofer回折強度パターンを二次元検出器で記録する。回折強度パターンに位相回復アルゴリズムを適用することでX線入射方向に投影した二次元電子密度像が得られる。 本研究では、SPring-8 BL29XULにて細胞の低温CXDIトモグラフィー実験を展開している。まず、細胞一つを薄膜の上に吸着させ、これを液体エタンによって急速凍結し、凍結水和状態とする。次に、試料を回折装置真空槽内部のゴニオメーターの上に搭載された液体窒素溜めポットに搬送する。試料を極低温に保った状態で回折実験を行うことができるので、X線照射による放射線損傷を低減することが可能である。今年度は、高湿潤環境セルを設計・製作し、光学顕微鏡に組み合わせることで細胞を観察しながら効率的に薄膜への細胞吸着作業を行うことができるようになった。さらにゴニオメーターや検出器といった光学系をまとめて管理する制御ソフトウェアを整備し、ほぼ自動で三次元回折データセットを収集する環境を構築した。これを用いて、1度~1.5度刻みで、検出器面に対して±80度の配向範囲の回折強度パターンを2日弱で記録し、50 nm~100 nmの分解能の三次元構造情報を得ることが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はSPring-8にて3回のCXDIトモグラフィー実験を通じて、複数の細胞の三次元構造データを記録することができた。回折装置の制御ソフトウェアは数時間に一回ハングアップする問題があったが、原因箇所を段階的に除去することで、現在では回折実験における回折データ測定はほとんど人の手を介することなく進行することができるようになった。また、光軸や入射強度が最も安定するよう光学系の運用方法を確立したことで質のそろったデータセットを得ることができるようになった。 試料調製の観点からは、細胞が薄膜へ押し付けられて変形する問題が浮上した。対処法として細胞が薄膜に接することがないように集束イオンビームによる微細加工技術を用いて設置個所に穴を設けた。しかしながら、穴への細胞の設置作業は熟練した手技をもってしてようやく可能となるため、現在は穴の大きさや形状を検討中である。 得られた回折データから電子密度分布を回復するアルゴリズムをGPUで実行できるように計算機環境を整えた。1億ボクセルを超える三次元データを扱うためにCPUクラスタマシンでは高速に計算できないケースがあり、これ補うことを目的としている。迅速に結果を表示できるよう将来的にはGPUの台数を増やして実験中におけるデータ解析システムを強化する予定である。 信号対雑音比の高い回折強度パターンをトモグラフィーデータセットとして2日弱で記録するという今年度の目標は達成できており、新たに生じた問題についても方策をもって対応可能であることから、当初の計画から大きく外れることなく、標記の進捗状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
光学顕微鏡と電子顕微鏡で解析が困難な空間階層領域を可視化するためには、現行の達成分解能50 nmを超えることが望ましい。25 nmの構造は放射線損傷の影響なく可視化できるという見積もりがあるので、今後は長時間試料にX線を露光することを見据えてさらなる回折実験オペレーションの省力化を行う。具体的には以下の点について改善及び発展を試みる。 (1)光源の変化にロバストな光学系構築を目的としてスリットやビームストップといった光学素子を最適化する。 (2)回折装置ゴニオメーター冷却用液体窒素の遠隔(自動)充填システムの構築 (3)大きな回転刻み幅でも高分解能電子密度分布を可視化できるよう圧縮センシングといった情報理論を回復アルゴリズムに実装する。 上記に加えて、細胞の状態ごとにどのような構造変化があるのか調べるためにセルソーターによる任意の細胞の細胞周期の特定及び分取プロトコルを確立する。今年度に整備した薄膜への細胞設置システム及び凍結水和試料調製システムに組み込むことで、細胞周期ごとに回折実験を行うことを目指す。
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