コヒーレントX線回折イメージング(Coherent X-ray diffraction imaging: CXDI)はμmサイズの非結晶試料を数十nm分解能で可視化する構造解析手法である。これまで電子顕微鏡と光学顕微鏡による可視化が困難であった空間階層領域が解析対象となるため、細胞小器官やタンパク質といったμmからnmサイズの組織で構成される細胞の機能構造解析に適用できると期待されている。CXDI実験では、高空間コヒーレントX線を試料に入射し、試料からの回折X線強度パターンを二次元検出器で記録する。回折強度パターンに位相回復アルゴリズムを適用することでX線入射方向に投影した二次元電子密度像が得られる。 本研究では、SPring-8 BL29XULにて細胞の低温CXDIトモグラフィー実験を展開している。実験ではまず、高湿潤環境セルと光学顕微鏡、これに付随するマニピュレータを用いて、細胞一つを薄膜の上に吸着させ、これを液体エタンによって急速凍結し、凍結水和状態とする。次に、試料を回折装置真空槽内部のゴニオメーターの上に搭載された液体窒素溜めポットに搬送する。ゴニオメーターや検出器といった光学系をまとめて管理する制御ソフトウェアを開発することで、1度~1.5度刻みで、検出器面に対して±80度の配向範囲の回折強度パターンを2日弱で記録し、50 nm~100 nmの分解能の三次元構造情報を得ることが可能となっている。 本年度は、適当な試料支持薄膜の検討を行い、回折実験の高度化を進めつつ、得られる1億ボクセルを超える回折画像データをGPU計算機を用いて高速に処理する数値計算プログラムの開発を行った結果、迅速に三次元電子密度分布の回復が可能となった。現状では回復計算の成否を検討する段階にあり、本手法を用いて微細構造まで可視化できれば、生物学的な議論へと発展させることが期待できる。
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