研究課題/領域番号 |
18H06065
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古谷 朋之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (10827356)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / ゼニゴケ / 発生 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
植物細胞は、周囲の外環境や隣接する細胞等からのシグナルを受容し、それに応じた細胞内シグナル伝達経路を活性化することで環境変化への適応や正確かつ柔軟な形態形成を行なう。タンパク質リン酸化酵素GSK3ファミリーとBES1/BZR1転写因子ファミリーは植物ホルモンであるブラシノステロイドや維管束幹細胞維持に関わるCLEペプチドホルモンTDIFのシグナル伝達においてハブモジュールとして重要な役割を担っている。一方、このモジュールがブラシノステロイドや維管束形成にいつ関連付けられたのか、またその起源的な役割がどのようなものかはわかっていない。そこで本研究では、近年モデル植物として研究の基盤が構築されてきたタイ類ゼニゴケを用いてGSK3-BES1/BZR1モジュールの起源的な役割を解明を目指して研究を行なった。 ゼニゴケの簡便かつ高効率の形質転換法を利用し、CRISPR法によるMpGSK3機能欠損ゼニゴケやMpBES1過剰発現植物の作出を行なった。MpGSK3機能欠損体、MpBES1過剰発現植物は共に葉状体への分化が抑制され未分化細胞塊のような表現型を示した。さらにこれら変異体のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行なったところ類似の遺伝子発現プロファイルを示したことから似た表現型であることが考えられる。また、BiFC法等によりMpGSK3とMpBES1がタンパク質間相互作用することも示唆された。これらの結果はゼニゴケにおいてもGSK3とBES1/BZR1がシグナリングモジュールを形成し、葉状体組織の細胞分化を負に制御していることを示唆している。さらに、作出したMpBES1過剰発現体は未分化細胞塊のような表現型を示し、詳細な観察には適していなかったので、今後のより詳細な研究に向けてエストラジオール発現誘導株の作出も行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基部陸上植物であるゼニゴケを使った解析により、GSK3とBES1/BZR1が陸上植物の進化の早い段階でシグナリングモジュールを形成し機能していることが示唆できたとともに、このシグナリングモジュールが葉状体の細胞分化を負に制御していることがわかってきた。これらの結果は今後このモジュールの機能解明の起点として重要であると考えている。また作成中の発現誘導型過剰発現株を使用することでより詳細な形態観察を進め、加えてRNA-seq、ChIP-seqを行うことで下流ターゲット遺伝子の同定を進めて行くことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
これまでゼニゴケの簡便かつ高効率の形質転換法を利用し、CRISPR法によるMpGSK3機能欠損ゼニゴケやMpBES1過剰発現植物の作出と形態学的比較解析、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析、生化学的解析を進め、MpGSK3とMpBES1がゼニゴケにおいてもシグナリングモジュールを形成し、葉状体組織の細胞分化を負に制御していることを示唆する結果を得た。これらの結果に基づき、本年度はさらに詳細な形態学的観察を進めつつ、下流因子や上流シグナルの探索を行なう。 今後は作出した誘導型MpBES1過剰発現体を使うことで形態的な影響をより詳細に発生に沿って観察するとともに、形態学的な影響を抑えた状態でMpBES1誘導後の遺伝子発現の変化をRNA-seqにより調べることによりより直接的な下流ターゲット遺伝子を探索できると考えている。さらにChIP-seqも使用することで絞り込みを行なう。 さらに、上流シグナルの特定を進める。被子植物における上流シグナルであるブラシノステロイドやTDIF ペプチドは有力な候補であるのでこれらをゼニゴケに処理した際にどのようになるのか、またMpGSK3、MpBES1 変異体との関係を調べる。
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