繊毛はヒトのほぼ全ての細胞表面に存在するアンテナ状の小器官で、外部からのシグナルの細胞内への伝達や体内の脳脊髄液などの形成などに関わっている。繊毛の異常は脳形成異常、多発性嚢胞腎、網膜障害など多岐に渡る症状を引き起こし、総称して繊毛病と呼ばれている。繊毛病には臨床症状の重症度や組み合わせから名付けられたいくつもの症候群が含まれており、本研究で焦点を当てているジュベール症候群関連疾患(JSRD)もそれらの症候群の一つである。 我々は以前にTGF-βシグナルの活性が阻害されることで繊毛の形態に異常をきたすことを報告したが、TGF-βシグナルが分子レベルで繊毛形成をどのように制御しているかは不明のままであった。その後の予備結果で、我々はまずTGF-βシグナルによって転写が活性化される繊毛関連遺伝子群をRNA-seqによるトランスクリプトーム解析から同定し、本研究では、その1つであったPOC1B遺伝子に焦点を当て繊毛形成過程におけるPOC1B遺伝子の役割を中心に解析した。 初めに、TGF-β/POC1Bはどの様に繊毛形成を制御しているかを精査したところ、TGF-β/POC1Bは細胞内から繊毛内へまたは繊毛内から細胞内への分子の運搬に関わるIntraflagellar Transport(IFT)複合体の形成を制御することで、繊毛の形態や機能に影響を与えていることを初年度研究期間に明らかにした。最終年度期間に、TGF-β/POC1Bに異常をきたすことで、IFT複合体によって運搬されない分子を単離した。POC1B遺伝子変異はJSRD患者で異常が報告されているため、本研究で単離された分子群はJSRD患者の繊毛での局在に異常をきたしていると考えられる。そのため、本研究で同定された繊毛内で異常局在を来す分子群はJSRDの病態を強いては繊毛病全体の病態を解明する重要な鍵になると期待できる。
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