ある種の鉄酸化細菌は、細胞外に中空の管状やらせん状の人工合成不可能な鉄酸化物構造体を形成する。本研究では、当該細菌の培養法を考案・駆使して、酸化鉱物の形成機構をイメージングにより可視化し、生成機構の一端を明らかにすることを目的としている。また、その生成を人為的に制御して細菌由来の新規素材生成法の確立を目指すものである。当初想定・確保していた試料の採取場所からの採取が困難となったことから、本菌が生息し、且つ新鮮な状態で採取できる場所を調査、探索した。その結果、都内および近県において数か所の湧水箇所や側溝、排水口で茶褐色の沈殿物を採取し、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)により沈殿物の形状を観察したところ、7か所中5か所においてチューブ状酸化鉄が確認され、そのうちの4か所ではらせん状酸化鉄も混在していた。また、本研究対象であるチューブ状酸化鉄をつくるLeptothrix ochraceaやGallionella ferrugineaと思しき菌体を確認できた試料は 5か所中3か所であった。そこから地下水を使用した集積培養により培養を試みたところ、菌体の増殖およびチューブ形状あるいはらせん形状の酸化鉄の生成は見られなかった。一方で、以前に採取し固定・樹脂包埋したG.ferrugineaのコロニーについて、連続超薄切片を作製し、切片SEM法によりらせん状酸化鉄を生成している菌体を探しだし 連続切片SEM法(Array tomography)により立体再構築し、らせん状酸化鉄を構成するナノ繊維が菌体から生成される場面をセミナノスケールで3次元的に可視化した。菌体周囲に短い繊維状あるいは粒状の高電子密度の物質(おそらく酸化鉄)が存在し、菌体の一領域かららせん状酸化鉄を構成する酸化鉄繊維が生成されていることを確認した。
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