最終年度は現生コケ類と昆虫類との相互作用の解明に注力した。野外で複数種のセン・タイ類を採集し、それを利用する昆虫の食痕と分類群とを対応付け、それらの昆虫の食性や生物間相互作用の解明を試みた。 [植食性昆虫とその捕食寄生者]3月から7月にかけて昆虫が集中的に出現した。なかにはこれまで報告のない系統が多数含まれていた。それとほぼ同時期に、多数の捕食寄生蜂が羽化した。8月以降には散発的となった。4-8月にかけて収集できた1166個体の昆虫について同定しつつ、食性の推定を進めている。 [食痕]外部食者および潜葉者に限り、特徴的な食害痕から昆虫を推定することができる例があった。穴あけ吸汁者では判別は困難であった。食害部分の植物片のパラフィン切片の作成により、分類群による摂食様式を特徴付けようと試みている。コケを利用する昆虫はパッチ状に分布するため、生息密度や食害率の変異が大きかった。 [コケ食者を利用する捕食者・捕食寄生者]コケ食昆虫と、それを宿主とする寄生蜂についてはこれまでほとんど先行研究がない。本調査からは捕食寄生者の驚くべき多様性が明らかになってきた。しかし、今回の採集・飼育方法では、多くの場合、宿主と寄生蜂とを関連づけられるに至っていない。現在、とくに寄生者が多いと考えられる昆虫に的を絞ったサンプリングもおこなっている。 本研究はとくにコケ食者と捕食者・捕食寄生者との関係について新知見がえられた点で意義深い。コケを基点とする食物網を理解する第一歩といえる。
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