本研究では、深海熱水噴出孔表面の構造物に生息する細菌叢を対象に、ショットガンメタゲノムシーケンスを行い、DNAメチル化修飾の多様性や普遍性、そしてそのシステムの進化史を解析する予定であった。ところが、実際にサンプルを用いたDNA抽出とサンプル調製を行ったところ、当初の予想に反して、おそらくサンプル中に含まれる夾叉物等の影響により、ゲノムシーケンシングが正常に完了しないことが判明した。このため、研究対象を熱水細菌叢から海洋細菌層に変更し、研究の方向性を大きく修正する必要に迫られた。 本年度は、新たなサンプルとして海洋微生物のDNAを十分量採取するために、太平洋沖合にて外洋表層海洋水の大量採水を行い、フィルター濾過を実施した。得られた細菌叢試料の一部を用いてDNA抽出の実験検討を行い、ゲノムシーケンシングに十分な量を取得できる実験プロトコルを構築した。このプロトコルを用いてDNAの大量調製とショットガンシーケンシングを行い、配列データを得ることができた。バイオインフォマティクスによるデータ解析の結果、新規のものを含む複数の多様なメチル化モチーフを検出できた。そして、これらのモチーフを認識すると推定されたメチル化酵素遺伝子を見出すことができた。現在、モチーフと酵素の対応関係を実験的に検証するために、大腸菌を用いた遺伝子組み換え実験を進めているところである。また、メチル化酵素遺伝子やそれらを持つ微生物系統の進化系統解析を行い、その進化史を議論していく予定である。
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