研究実績の概要 |
「眠気」は睡眠を理解するうえでの根幹をなす現象でありながら、未だ実体が明らかになっていない。近年の所属研究室での先行研究から、研究代表者らは「眠気」の実体は、脳内のタンパク質のリン酸化状態の累積的変化であり、セリンスレオニンキナーゼSIK3をキーとする未知の細胞内シグナル伝達経路がこれを制御している、と仮説を立てた。本研究の目的は、この細胞内シグナル伝達経路の全容を明らかにすることで、「眠気」の分子実体を明らかにすることである。 本研究では、このシグナル伝達経路の全容を明らかにするための最初の手立てとして、SIK3の基質の探索を行った。そのためにまず、Sik3機能獲得型変異型マウス脳とSik3欠損マウス脳とで逆のリン酸化状態の変化を示すリン酸化タンパク質を、リン酸化プロテオーム解析で探索した。しかし、この2種類の変異型マウス脳で顕著なリン酸化状態の変化を示すリン酸化部位のリン酸化レベルは、ほぼ完全に正の相関を示した。このことから、数秒から数分で完了するリン酸化という現象を、恒常的な変異導入という、大きくタイムスケールの異なる方法で追うことには限界があるのではないかと考えた。 前述の解析ではSIK3の基質の特定には至らなかったため、まずは睡眠との関係は考慮せずに、in vitroでSIK3の新規基質の探索を試みた。KIOSS (Kinase-Oriented Substrate Screening) (Nishioka et al., 2015)と呼ばれるスクリーニングを行った結果、38のタンパク質の56か所のリン酸化部位がSIK3のリン酸化部位の候補として同定された。さらに、今回のスクリーニングで同定された候補タンパク質について、パスウェイ解析を行い、SIK3の下流で機能している可能性が高いシグナル伝達経路を特定した。
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