研究課題
(研究成果の具体的内容)今年度は、皮質単発電気刺激(SPES)に関する研究(本学IRB #443、C1212)に対して同意が得られた、難治局在関連性てんかんの病変切除の術前評価目的で頭蓋内電極を留置された患者8人の、覚醒・睡眠時のSPES誘発性の皮質脳波データの解析を行った。具体的には、SPESにより複数の電極に誘発された高周波活動の相互の関係性(刺激で惹起された神経活動ネットワークの指標となる)について因果性解析(ERC: Event-related causality: Granger因果性解析を多チャネルに拡張した手法)を進め、睡眠段階による差がないかを検討した。その結果、てんかん非焦点において、1.前頭葉から頭頂葉への神経活動の伝播は覚醒時より深睡眠時に大きくなること、2.レム睡眠時には前頭葉内での伝播が少なくなり、逆に頭頂葉内では伝播が多くなること、を見出し、国際睡眠専門誌(Usami K., et al., SLEEP, 2019)に投稿し受理された。(意義・重要性)本結果は、覚醒・睡眠の生理学的な状態の変化と関連して前頭葉・頭頂葉の神経活動の有向ネットワークのバランスが変化していることを、ヒト皮質脳波を用いて初めて示した。また、上記1からの考察として、前頭葉てんかんの発作が睡眠時に起きやすいのは覚醒時と比し前方から後方領域への伝播がしやすいためであるという可能性、上記2からは、レム睡眠時に見られやすく、複雑で理性による制御困難な経験である『夢』が、前頭葉内ニューロン活動伝播の低下と頭頂葉内活動の伝播の亢進で形作られるという可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
・皮質脳波記録、皮質単発電気刺激(SPES)を用いたデータを用い、電極間の有向ネットワークが睡眠により変容すること、変容様式は脳葉で差があることを初めて明らかにし、国際専門誌に報告した。・本研究の過程で、複数の状態における脳波活動を比較する際に汎用性・頑強性の高い統計学的手法を解析プログラムに実装でき、今後の同様の研究において利用できると考えられた。
・研究結果を学会のシンポジウムなどで発表し、他の神経科学研究施設、病院施設の協力を得て同様のデータの蓄積を進めるとともに、異なるSPES刺激間隔を用いたときの高周波活動の変化の解析と因果性解析も行う。・頭蓋内電極を留置する患者に同意を得て、頭皮上脳波も同時記録してERCの結果と相関を示す非侵襲的な指標の検索を試みる。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Sleep
巻: - ページ: 印刷中
10.1093/sleep/zsz050.