Notchシグナルは神経幹細胞の自己複製促進作用が知られており、一方で我々はDeltaシグナルが末梢神経の神経分化を促進することを明らかにしている。本研究では、我々が開発したシグナル伝達を飛躍的に上昇させるタンパク質のクラスター化技術を用い、パーキンソン病に対する再生医療の実現に向け、中脳ドーパミン作動性(mDA)神経細胞の大量作製につながる技術開発を行った。まず、海馬由来ラット神経前駆細胞(rNPC)を用いDeltaシグナルが中枢神経系においても神経分化を促進することを明らかにした。次に、Dll1(Notch1)細胞外領域タンパク質をヒアルロン酸にクラスター化することに成功した。煩雑な操作と時間が必要なヒトiPS細胞を用い、mDA神経細胞分化実験に対するNotch(Delta)シグナル活性化の条件検討を行うことは難しい。そこで、Notch(Delta)シグナルのレポーターアッセイ系の構築を試みたが、感度よい細胞株は得られなかった。そのため、まずはrNPCを用い詳細な細胞増殖と神経分化の条件検討を行った。Notchシグナル活性化による細胞増殖の賦活化作用は、予想に反しNotchシグナルの活性化能の低いDll1タンパク質の添加が最も細胞増殖を亢進した。Deltaシグナル活性化による神経分化の賦活化作用では、高密度にクラスター化したNotch1はrNPCを成熟神経細胞様の形態に変化させた。加えて、Deltaシグナルの活性化により分化した神経細胞数も増加することが明らかになった。これらの結果から、神経前駆細胞の細胞増殖の賦活化には適切なNotchシグナルの活性化が必要であること、そして、適切なDeltaシグナルは細胞増殖を繰り返しながら神経分化を促進することが明らかになった、今後はヒトiPSを用いmDA神経細胞の大量作製を試みる。
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