本研究ではアルツハイマー病(AD)患者脳の発現解析による炎症関連因子とその制御機構の解明およびAppNL-G-Fマウス(APP-KIマウス)と早期AD脳を用いた炎症関連遺伝子発現解析とその制御因子の探索の 2 つの研究目標を設定して研究を遂行してきた。 前年度から着目してきた炎症調節因子であるSOCSファミリー遺伝子について、その阻害剤XをAPP-KIマウスに反復投与し、認知機能低下を有意に改善し、組織免疫染色法によりAβの量が有意に低下する事が明らかとなった。また、この行動解析の後に磁気細胞分離法を実施し各グリア細胞特異的なSOCSファミリー遺伝子の発現量変化とそれに伴う炎症関連遺伝子の発現変動を解析して、SOCSファミリー遺伝子の制御によるAD治療の可能性を検討した。その結果、APP-KIマウスの単離したアストロサイトにおいて上昇したSOCSファミリー遺伝子はXの反復投与により有意に抑制したことが確認でき、その抑制に伴い神経傷害性アストロサイト関連遺伝子(Serping1: Serpin Family G Member 1およびFkbp5: FKBP Prolyl Isomerase 5)の発現上昇が抑えられたことが明らかとなった。 さらに、神経病理学的に早期ADと診断された剖検脳において、早期からアミロイド病理が見られる楔前部の脳試料の供与を得た。早期AD患者脳とAPP-KIマウスから抽出したグリア細胞を用いて次世代シークエンスを実施し、共通して変動した炎症関連遺伝子のプロファイルを作製した。その結果、主に免疫関連細胞に発現し、炎症調節に関与することが知られているカンナビノイド受容体2型(CB2)を含む炎症関連遺伝子が確認された。
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