研究実績の概要 |
多発性硬化症(MS)は、神経軸索を取り巻くミエリンが破壊される中枢神経系の脱髄性疾患である。運動障害や感覚障害などの神経症状が再発と寛解を繰り返して進行し、最終的に車イス、ベッド生活を余儀なくされ健康寿命を著しく低下させる。MSは、「自己免疫性」と「非自己免疫性」の2つの発生メカニズムが広く認知されている。MSの基礎研究では、自己免疫性MSを反映する実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)モデルや、非自己免疫性MSを反映するクプリゾン(Cuprizone: CPZ)動物モデルが広く用いられている。自己免疫性MSの治療薬は多く臨床応用されているが、MS病態の再発を抑制するにとどまり、病態の進行を食い止める治療薬は開発されていない。 環状ホスファチジン酸(Cyclic phosphatidic acid: cPA)は、真性粘菌より単離された独特な環状リン酸構造を持つ脂質メディエーターである。申請者は、CPZ誘導脱髄モデルマウスを作製し、cPA投与による脱髄抑制効果、運動障害改善効果を明らかとした(S. Yamamoto et al, Eur J Pharm 2014)。cPAを治療薬として応用する為、より高い生体内安定性をもつ化学合成されたcPA誘導体である 2-carba-cPA(2ccPA)が開発された。申請者はEAEおよびCPZモデル動物を作製し、2ccPAを投与し病態解析を行った。2ccPAはEAEおよび、CPZの両MSモデルにおいて脱髄抑制効果を示した(S. Yamamoto et al, J Neuroinflammation 2017)。
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