研究課題/領域番号 |
18H06115
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大塚 裕太 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 助教 (10822520)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 共結晶 / 結晶多形 / ビッグデータ解析 / 機械学習 / 医薬品情報 |
研究実績の概要 |
医薬品創製においては,候補化合物の溶解性の低さなどの物理化学特性がしばしば製剤化の断念につながり,このことが医薬品開発の遅れの一因になっている。この問題の解決法の1つに,医薬品候補化合物の共結晶化による溶解性の改善やバイオアベイラビリティーの向上が提案されている。共結晶は2つ以上の化合物が水素結合ネットワークを形成することにより,物理化学的特性が変化することが知られている。しかし,主薬が共結晶化可能であるかどうか,良好な組み合わせについては未解明な点が多く,膨大な主薬原末と有機溶媒を用いた非効率的なスクリーニングが現状である。本報告者は,この問題を解決するために,共結晶の水素結合ネットワーク形成による結晶格子変化や物理化学的特性変化を分光や熱分析などのWetデータおよび医薬品情報に基づくDryデータを組み合わせたWet Dry Hybridデータセットを構築し,機械学習による詳細な物理化学情報の抽出および共結晶候補化合物の探索法の検討を行った。 当該年度に実施した研究の成果について,医薬品情報を医薬品結晶の分光スペクトルと物理化学的物性としてデータセットとし,機械学習であるケモメトリックス・ケモインフォマティクスを試み,その学習モデルに基づく予測性および予測モデルから相関解析の因子の特定を目的としていた。その結果,医薬品スペクトルに基づく物性値との相関性を見出し,それらの相互作用メカニズムを明らかにできた。また薬物間の相互作用解析に分子動力学シミュレーションを応用することで相関性に関する解析を補足的に特定することができた。また,教師なし型ビッグデータ解析を医薬品情報データセットのデータノイズの排除に応用した。この方法に基づき,予測精度が向上していることを確認できたために,当初の目的はおおよそ達成できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在,医薬品分子の構造やテキストデータの自然言語処理と形態素解析を組み合わせたDryデータとして組み込んだ,Wet Dry Hybrid(WDH)-データセットの構築を進めている。WDHデータセットに基づく共結晶探索法に我々がこれまでに開発したスコア微分情報抽出法,複合化多目スペクトル Partial least squares 回帰ベクトル 相関解析法を組み合わせることによって共結晶の水素結合ネットワーク形成における因子を特定している。 またWetデータにおいては、医薬品結晶擬似多形のラマンスペクトルと熱分析の測定結果のデータセットに対して回帰ベクトル相関マッピング法を適応した。結晶擬似多形のラマンスペクトルと熱分析の回帰モデルを構築することによって、水分子との水素結合ネットワーク形成における結晶構造の変化を評価できた。これらの方法は簡便に共結晶を評価することができ、共結晶候補化合物スクリーニング法の基礎研究としての知見を示すことができた。また、積分球アタッチメントを用いた紫外可視吸光相対吸光分光器と機械学習によるモデル配合直打錠の定量予測を行い日本薬学会 第139年会(千葉)にて報告した。紫外可視吸光相対吸光スペクトルから構築されたモデルに基づき、回帰ベクトルの重要性を報告した。共結晶化に伴って白色結晶から有色結晶へと変化する化合物(インドメタシン系共結晶)も多く報告されており、従来の評価方法である熱分析、X線回折法ではない、共結晶探索における新たな指針となることが示唆された。機械学習の学習モデルに基づく予測性および予測モデルから相関解析の因子の特定を応用できることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては,独自の自然言語処理を組み合わせた医薬品情報のデータセットの構築およびノイズデータの排除方法をDry Wet Hybridデータセットに応用することである。ケモインフォマティクスおよびケモメトリックスに基づく予測精度の向上をデータセットの拡張により挑戦している。自然言語処理のデータとしては米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)の公開する英文の医薬品添付文書を基に形態素解析を行い、データセットとして採用する。形態素解析後のデータを頻出度関数による正規化処理と教師なしデータマイニングによって次元を削減し、Dryデータセットの一部とする。特定の医薬品分子が共結晶化可能であるかどうか,良好な組み合わせについては未解明な点がまだまだ多いが,次元削減によって大型計算機を用いないin silicoスクリーニング法を検討している。本報告者のこれまでの研究成果と情報工学と医薬品結晶の専門的見識に基づく,幅広い医薬品分子に応用できる共結晶化スクリーニング法の可能性を追求していく予定である。スクリーニングに伴い予測した共結晶を結合剤,賦形剤,崩壊剤,滑沢剤を組み合わせた実処方に近い共結晶直打モデル錠剤を作製する。ボックス・ベーンケン実験計画法に基づき各処方設計を行う。モデル錠剤に高湿度下保存や熱による試験を行い,主薬のみの場合との製剤物性の変化について各種分析法(熱分析,粉末X線回折,赤外分光,テラヘルツ分光,溶解速度試験)を用いてと反応速度論的評価について報告する。また,共結晶の報告に伴って規則的な分子配列をもたない複合体である共アモルファスも近年多く報告されており,併せて検討していく方針である。
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