研究課題/領域番号 |
18H06123
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
津野 祐輔 金沢大学, 医学系, 助教 (70827154)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | サーカディアンリズム / 視交叉上核 / ファイバーフォトメトリー / カルシウムイメージング / インビボ |
研究実績の概要 |
全身のサーカディアンリズムのリズム同調を制御する視交叉上核において、背内側部のAVPニューロンと、腹外側部のVIPニューロンは、異なる機能を持つと考えられている。AVPニューロンのみで時計遺伝子Bmal1を壊したマウス(AVP-Bmal1-/-)では、サーカディアンリズムの著しい減弱が観察されることから、視交叉上核のAVP ニューロンがサーカディアンリズム発振に極めて重要な役割を果たすと示唆される。このマウスでは、AVPニューロン活動の変調が推測されるが、実際に記録された例はない。本研究において申請者は、視交叉上核ニューロンの活動を細胞種特異的に計測するシステムを構築した。細胞活動に伴うカルシウム濃度上昇を検出するために、脳内から蛍光を検出するファイバーフォトメトリー法を用いた。当初は退色の影響が大きく、日内リズムを観察することが難しかったが、励起光強度、励起・記録時間、励起光源の種類に関する条件検討を行い、方法を確立した。まだ実験数は少ないが、AVPニューロンとVIPニューロンでは、カルシウム活動の日内ピークが異なる可能性が見られている。このことは、視交叉上核においてAVPニューロンとVIPニューロンが異なる機能を持つ可能性を支持する。今後は、立ち上げたファイバーフォトメトリー法の系を用いて、AVPニューロンまたはVIPニューロンのカルシウム活動を15日間という長期にわたり連続記録する。加えて、個体の活動を同時に記録する系を立ち上げる。そして、AVPニューロン活動の日内変動が、個体レベルの日内変動とどの程度同期しているのかを、AVPニューロン特異的遺伝子改変マウスを用いて明らかにする。本研究により、視交叉上核内におけるサーカディアンリズム制御の、神経回路メカニズムに迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において申請者は、視交叉上核AVPニューロン及びVIPニューロンの活動の、日内リズムを調べるシステムを構築した。AVPニューロンまたはVIPニューロンに特異的に、カルシウムインディケータGCaMPを発現させた。AVP-CreまたはVIP-creマウスの視交叉上核に、Cre依存的にGCaMPを発現するウイルスベクター(AAV.CAG.Flex.jGCaMP7s)をハミルトンシリンジで注入し、加えて記録用のオプティカルファイバーを埋め込んだ。2~4週間待ちGCaMPを十分発現させた後、インビボカルシウムイメージングを行う、ファイバーフォトメトリー法の系を立ち上げた。当初は退色の影響が大きく、日内リズムを観察することが難しかったが、励起光の強度を下げ、記録時間を10分間のうち30秒に限局することで、問題を解決した。当初レーザー光源を用いると、励起光の強度が安定しないという問題があったが、LED光源に変更することで励起光の強度が安定し、安定した記録を得られるようになった。改善した実験パラメータを用いて、2-5日間の明暗サイクルのみ、または2-5日間の明暗サイクルの後、3-10日間の暗サイクル環境に置き、AVPニューロンまたはVIPニューロンのカルシウム活動を記録した。まだn=1とn=2であるが、AVPニューロンとVIPニューロンでは、カルシウム活動の日内ピークが異なる可能性が見られている。おおむね順調に研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、立ち上げたファイバーフォトメトリー法の系を用いて、5日間の明暗サイクルの後、10日間の暗サイクル環境に置き、AVPニューロンまたはVIPニューロンのカルシウム活動を記録する。加えて、個体の活動を同時に記録する系を立ち上げる。そして、AVPニューロン活動の日内変動が、個体レベルの日内変動とどの程度同期しているのかを、AVPニューロン特異的遺伝子改変マウスを用いて明らかにする。遺伝子改変マウスとしては、サーカディアンリズムが延長・減弱しているAVP-Bmal1-/-マウスを用いる。また、日内リズムが延長しているAVP-CK1δ-/-マウスと、日内リズムが短縮しているAVP-CK1δ過剰発現マウスも用いる。これらの遺伝子改変マウスのAVPニューロンが、どのような日内リズムで活動しているかを、カルシウムイメージングによって、カルシウムダイナミクスを記録することによって調べる。AVPニューロンのみの時計遺伝子を操作しているので、AVPニューロンの活動変化が個体のサーカディアンリズム異常を引き起こしていると推測されるが、その証拠はまだ得られていない。視交叉上核のスライスを用いた実験では、必ずしも個体サーカディアンリズムの変化と一致する結果が得られておらず、視交叉上核ネットワークや液性因子の関与も示唆される。よって、AVPニューロンがサーカディアンリズムを発振するメカニズムを明らかにするためには、自由行動下マウスのAVP ニューロン活動を観察することが必要不可欠である。本研究により、視交叉上核内におけるサーカディアンリズム制御の、神経回路メカニズムに迫る。
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