本研究で以下の 2 つの仮説を立てていた。 仮説 1:一部の本態性高血圧患者の副腎では,APCC の数が正常より増加している。 仮説 2:これらの APCC は CACNA1D の遺伝子変異を有する。 前年度に引き続き,仮説1に対し,アルドステロン合成酵素CYP11B2の免疫化学染色を行いアルドステロン産生細胞を同定したスライドにおいて,APCCの数を算出した。すると,このコホートの副腎では,1副腎あたり平均1.5個のAPCCを同定した。この数は,対照とする正常副腎の0.57個/1副腎より多く,特発性アルドステロン症の副腎6.9個/1副腎より少なかった。これにより,本態性高血圧患者の副腎においては,正常副腎よりAPCCの数が多いことで血圧が上昇し,特発性アルドステロン症の副腎よりAPCCの数が少ないことでアルドステロン値が低い,という臨床的知見に合致する所見を得た。これは既報はない新知見であった。 ついで,仮説2を示すため,これらのAPCCからDNAの抽出を試みた。DNAの抽出は,当初の予定通り,コホートの副腎のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックから,DNA 抽出用の 10um の未染色ガラススライドを連続切片として作成し,APCC 部位の DNA を顕微鏡を用いてそれぞれ別々に抽出を行った。ついで,当初の計画通り,プロトコルに従ってDNAの抽出およびNGSライブラリ作成を行ったが,最終過程でライブラリの質を確かめるために行う qPCR において,次のステップであるNGSにたえうる質の良いライブラリの作成が困難であった。キットのロットを変更したり,APCC部分ではない正常部分の組織からDNAの抽出を行ったが,結果は同様であった。正常部分の組織からも質が確保されたNGSライブラリの作成がうまくいかなかったことから,検体(剖検症例)の質そのものが悪かった可能性が考えられた。
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