マラリア原虫であるPlasmodium berghei ANKA株(PbA)をC57BL/6マウスに感染させると脳神経症状を呈し死にいたることが知られており、これを脳マラリアと呼んでいます。このモデルを使って、血液脳脊髄液関門の状態を昨年開発した評価法で確認しますと、脳神経症状を発症する前は、非感染マウスと同様で異常は認められませんでした。しかしながら、脳マラリアを発症すると70-80%ほどのマウスにおいて血液脳脊髄液関門が破綻することが確認されました。さらに脳の組織切片により血液脳脊髄液関門が存在する脈絡叢を観察すると、PbA感染マウスにおいてマラリア原虫の代謝産物であるヘモゾインを貪食した細胞を検出しました。さらに脈絡叢上皮細胞の浮腫が認められ、脳室内出血している個体も確認されました。 次に、この現象は脳マラリアを引き起こす原虫に特異的な現象なのかを確認するためにPyNL、PbNKという別のマラリア原虫で感染実験しました。するとほぼ血液脳脊髄液関門の破綻は認められませんでした。 最後に、どういったメカニズで血液脳脊髄液関門の破綻が起きるのかを解析しました。感染後に抗マラリア薬であるピリメサミンによりPbAを治療すると、脳マラリアの症状を呈しませんし血液脳脊髄液関門の破綻も起きませんでした。次に脳マラリアを引き起こすと言われているCD8T細胞を抗体で除去すると、抗マラリア薬の場合と同様に脳マラリアの症状を呈しませんし血液脳脊髄液関門の破綻も起きませんでした。 これを総合すると、PbA感染により、マラリア原虫あるいは原虫由来の産物が脈絡叢に蓄積し、血液脳脊髄液関門を構成している上皮細胞がCD8T細胞により傷害され、結果として血液脳脊髄液関門の破綻が起きることが推察されました。
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