研究課題/領域番号 |
18H06143
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
宮原 大貴 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 助教(特定雇用) (90823287)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | アミロイドーシス / アポリポ蛋白質 / リポ蛋白質 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
アミロイドーシスは疾患特異的な蛋白質が線維化し、アミロイド沈着として臓器に蓄積することで機能不全を来す疾患である。線維構造の獲得に伴うアミロイド形成過程には、前駆蛋白質の細胞内における様々な代謝過程が関与することが示唆されているが、細胞内のアミロイド凝集体の精製が困難であることから共存分子の体系的解析は為されておらず、その詳細は未だ未解明である。本研究は、培養細胞系におけるアミロイド沈着の解析系に確立および画期的なレーザーダイセクション装置を駆使することで、アミロイド形成過程に関与する細胞内分子機構の解明を目的としている。 平成30年度は、血清高密度リポ蛋白質(HDL)のアポ蛋白質であるアポリポ蛋白質A-II(ApoA-II)に由来するアミロイドーシス(AApoAIIアミロイドーシス)をモデルとして、AApoAIIアミロイドーシスモデルマウスから精製したHDL(含ApoA-II分画)またはAApoAII線維を材料に、①培養細胞系におけるAApoAII沈着形成モデルの確立、②生体内アミロイドとの比較解析、③アミロイド形成時の細胞状態の検討、の3点を目指した。マクロファージ系細胞へのAApoAIIの添加は、細胞外におけるチオフラビンT(アミロイド線維に特異的に結合する蛍光色素)陽性の沈着物形成を誘導することを明らかにした。この形成物は、生存細胞数には影響を与えないこと、アポリポ蛋白質A-I, Eなどの生体内でアミロイドと共沈着する蛋白質が含まれること、生細胞の存在下では時間経過に伴って減少することを明らかにした。また、HDLの添加はマクロファージの泡沫化を誘導し、上記の沈着減少を抑制することを明らかにした。以上の結果から、本研究成果はプリオンと類似した伝播現象に基づいたアミロイドの形成過程、または沈着後のアミロイドの分解過程の解析において有用なモデルである可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、①AApoAIIアミロイドーシスモデルマウス由来のアミロイド線維または前駆蛋白質(HDL)を材料としてマウスマクロファージ系細胞においてアミロイド沈着形成モデルを確立する、②共沈着蛋白質の同定や凝集体構造を電子顕微鏡により観察を行うことで生体内のAApoAIIとの比較解析を行う。以上の研究の実施を予定していた。 培養細胞系におけるAApoAIIアミロイド沈着の形成は、当初の計画通りマウスマクロファージ系細胞を用いて生体由来のAApoAIIアミロイド線維の添加により成功した。形成されたアミロイド沈着は、生体内アミロイドと同様のアミロイド関連蛋白質の含有やアミロイド特異的な蛍光色素への反応性を示し、in vitroのアミロイド解析システムとして確立できた。一方、HDLの添加試験により、マクロファージ細胞には細胞外の異常凝集体の分解する分子機構が存在し、それは細胞内の脂質含有量の増加によって抑制されることが示唆されたが、研究計画に記載していたHDLの添加によるde novoのアミロイド沈着形成は達成できなかった。これについては今後、アミロイド線維核の投与やより長期的な試験を検討する。 また予期していなかった事であるが、培養細胞系で形成されたAApoAII沈着が生細胞の存在下において短期間で消失することを発見した。いくつかの全身性アミロイドーシスでは血中の前駆蛋白質量を減少させることにより、既に沈着したアミロイドが消失することから、生体内のアミロイドは沈着と融解のバランスが重要だと考えられているが、このモデルはアミロイド沈着の分解メカニズムの解析に利用できる可能性が示唆された。これらのモデルを用いることで次年度以降の研究計画がスムーズに遂行可能である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は、確立した培養細胞系モデルを用いて以下の実験を実施する。①改良型レーザーマイクロダイセクション装置により回収した形成過程のAApoAII沈着についてプロテオーム解析を行うことで、相互作用する生体分子を網羅的に同定し、アミロイド沈着の形成過程に関与する細胞内の分子機構を明らかにする。また、蛍光ラベルにより細胞内に取り込まれた代謝過程のHDLを観察し、同様の装置で回収し質量分析や生化学的解析を行うことで、断片化されたApoA-IIの検出やHDLが時間経過に伴ったアミロイドの減少を抑制するメカニズムを明らかにする。特に、各種受容体やプロテオグリカンの発現・機能の抑制によるエンドサイトーシスの阻害や、プロテアーゼ阻害剤などによるライソゾーム機能の阻害が、アミロイド沈着形成に及ぼす効果を検討する。これらの効果について、AApoAIIアミロイドーシスモデルマウスを用いて種々の濃度の阻害剤を継続的に投与し、アミロイド沈着程度を病理組織学的に比較検討する。 ②生細胞の存在下でアミロイド沈着が時間経過と共に消失したメカニズムを解明するために、HDLの添加によるマクロファージ細胞の泡沫化がこれを抑制したことに着目し、RNA-seq法による網羅的な遺伝子発現解析を行うことで、泡沫化マクロファージにおいて変動した細胞内分子機構を明らかにする。また、LDL, VLDLなどの他のリポ蛋白質分画ならびにApoaA-IIノックアウトマウス由来のHDLの添加による作用を生化学的・分子生物学的に解析することで、細胞内の脂質含有量とアミロイド消失の関係を明らかにする。以上の結果から、既に沈着したアミロイドを分解機構の活性化により、アミロイドーシスの新たな治療戦略の開発を目指す。
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