研究実績の概要 |
高比重リポ蛋白質(HDL)はアポリポ蛋白質A-I, A-II, C-II, C-III, SAAなどのアミロイド病原蛋白質と、アポリポ蛋白質Eやクラステリンなどのアミロイド共沈着蛋白質が多数含まれる血漿成分である。本研究は、培養細胞系を用いてHDLの代謝過程やアミロイドとの相互作用を検討することで、アミロイドーシス病態における蛋白質の病原性獲得の分子機序の解明を目指す研究課題である。 AApoAIIアミロイドーシスモデルマウスの血清より分離したHDL分画を、マウスマクロファージ様細胞株J774A.1細胞に投与することにより、細胞内に脂質の蓄積ならびにアポリポ蛋白質A-I, A-II, E陽性の凝集体形成が誘導された。凝集体を形成した細胞に、さらに最長2週間の継続投与やアミロイド線維の投与による伝播を試みたが、アミロイド沈着の形成には至らなかった。また、マクロファージ細胞はエンドソーム-ライソゾーム経路を介してAApoAIIアミロイドを分解する作用を示した。一方で、過剰なアミロイドの取り込みは細胞毒性やアポトーシス関連遺伝子の発現変化を誘導し、細胞機能の低下を引き起こすことが示唆された。これらの結果をもとに、マウスにAApoAIIアミロイドを投与したところ、アミロイドは肝臓のクッパー細胞によって積極的に貪食され、24時間程度の比較的短時間で消失すること示された。 本研究により、マクロファージ細胞によるHDLの代謝過程において、細胞内にアポリポ蛋白質群が密に存在する区画が生じ、アミロイド形成の場となる可能性が示唆された。また、生体にはマクロファージ細胞を介したアミロイド分解機構が備わっており、これらの機能維持が治療戦略の一つとなり得る可能性が示唆された。
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