本研究期間において、異種ウイルス間では協調や干渉など様々なタイプの相互作用がウイルスのライフサイクルの様々なレベルで観察されることを明らかにすることができた。2018年度までの研究により、「異種ウイルス間相互作用のメカニズムの解明を通してウイルスに普遍的な増殖メカニズムに迫る」という本研究目的の大前提は担保された。特に麻疹ウイルスのLタンパク質にはヒトメタニューモウイルスの転写・翻訳を促進する未知の機能があることが判明したことで、研究の方向性が定まった。 2019年度はLタンパク質のウイルス増殖に果たす役割について分子メカニズムの解明に取り組んだ。CAP依存性翻訳とIRES依存性翻訳の比を評価する系を確立し、Lタンパク質が影響を与えるか調べたところ、Lタンパク質の発現によりCAP依存性翻訳がIRES依存性翻訳に対して優位になることが分かった。これはCAP依存性翻訳によりウイルスタンパク質が合成される麻疹ウイルスにとって合理的な働きであると考えられた。詳しいメカニズムを調べるため、マイクロアレイ解析を実施したところ、L遺伝子が過剰発現するとOxidative stress、p53 pathway、Hippo pathwayに関わる遺伝子群の発現が抑制されることを見出した。これらのパスウェイと翻訳についての関係性は現在検討中である。また、プロテオミクス解析を用いてLタンパク質と相互作用する宿主蛋白質を網羅的にスクリーニングし、候補タンパク質としてAIMP2、OTUB2、RYDEN、IFIT3、DDX5が挙げられた。これらの宿主タンパク質とLタンパク質の結合が機能的なものであるかは今後の検討課題である。
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