本研究では、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)の細胞侵入過程に対する阻害剤の同定と、その作用機序の解明を目的としていた。2019年度は、CCHFV由来のシュードウイルスの効率的な作製方法の確立、及びCCHFV侵入阻害剤の同定と作用機序の解明を目標としていた。 まず、CCHFVの表面糖タンパク質のヒト細胞における発現効率を上げるためにコドン最適化を行った。更に、ウイルス粒子への取り込み効率を上げるために、その細胞質ドメインを欠損した変異型(ΔC10)を作製した。それらを用いた結果、水疱性口炎ウイルス(VSV)由来の粒子核とCCHFVの表面糖タンパク質を持つシュードウイルス(VSVΔG-CCHFV-G)の作製に成功した。特にΔC10を用いた場合には、バックグラウンドに対して感染シグナルが1000倍程度あり、かつZ-factorが0.7以上であった。従って、本研究で開発した系は大規模スクリーニングにも適用可能であることが示唆された。 次に、2018年度にハザラウイルス由来のシュードウイルスを用いて同定した感染阻害剤の効果を、上記のVSVΔG-CCHFV-Gを用いて確認したところ、同程度に感染を阻害することが分かった。特に、ClaramineはIC50値が1 uM程度であった。また、その既知の標的として宿主のPTP1Bが知られているが、他のPTP1B阻害剤はVSVΔG-CCHFV-Gの感染に対して特異的阻害作用を示さなかった。また、VSVΔG-CCHFV-Gの宿主細胞への曝露前にウイルス粒子をClaramineで前処理しても、感染効率の低下が認められなかった。従って、CCHFVの細胞侵入過程においてClaramineの標的は、PTP1Bでもウイルス粒子自体でもないことが示唆された。その作用機序については現在も引き続き解析を行っている。
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