研究課題/領域番号 |
18H06147
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
神谷 知憲 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (80823682)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 肝臓がん / 脂肪肝 / リノール酸 / 乳酸菌 |
研究実績の概要 |
生体内にてリノール酸(LA)は、アラキドン酸などを介する経路にて、脂質メディエーターであるプロスタグランジンに代謝変換される一方で、細菌は、独自の酵素により、LAをHYAやKetoA、CLA1などへ変換する。このLAの細菌代謝物は、炎症抑制効果などの機能性が報告されているが、生体内における効果についてはあまりわかっていない。 脂肪酸の過剰摂取は肥満となり、様々な疾患の原因となる。近年の報告にて、肥満により腸内細菌叢が変化し、腸内細菌が産生するデオキシコール酸が増加し、肝腫瘍形成を促進していることが明らかとなった。この肝がんモデルでは、病態初期は非アルコール性脂肪肝炎であり、慢性炎症の結果腫瘍形成となる。細菌のLA代謝物に炎症抑制効果が期待されることから、本モデルに用いる高脂肪食のLA含有量を調整した結果、高LA餌にて肝腫瘍形成数が減少することが明らかとなり、本研究では、肥満誘導性肝ガンに対する細菌のLA代謝物の効果を明らかにすることを目的とした。 本年度の計画として、(1)細菌のLA代謝産物が実際に生体内で検出されるか、(2)LAを産生する腸内細菌の単離・同定を実施した。(1)について、腫瘍形成の場である肝臓の脂質プロファイルを質量分析器により解析した結果、HYAなどの細菌代謝物が高LA餌にて増加することが明らかとなった。これにより、LAを腸内細菌が代謝し、肝臓に蓄積されていることが証明された。(2)について、LA代謝菌を検出する方法として、LAと腸内細菌とを嫌気性条件下にて共培養し、耐性または嗜好性のある菌を選別した。結果、一種類の菌のみ発育し、16SrRNA配列を解析し、齧歯類に特有の乳酸菌であることが明らかとなった。本年度の研究結果により、腸内細菌によるLA代謝、及び腸肝循環によるLA代謝物の肝臓への蓄積が明らかとなり、肝がん抑制の可能性を一部示唆することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
リノール酸の肝腫瘍形成抑制機構を解明するため、本研究ではリノール酸の細菌代謝物に着目している。そのため、リノール酸代謝能を有する腸内細菌の同定、及び単離が必須であり、また腸内細菌代謝物が生体内で検出されるかを検証する必要がある。 リノール酸代謝能を有する腸内細菌を同定するため、これまで知られているリノール酸代謝酵素のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計し、Nested PCRにより糞便DNA中の該当領域の増幅を試みた結果、齧歯類に特有に存在する乳酸菌の遺伝子が検出されていた。また該当菌の単離を行うため、同定法として、リノール酸と腸内細菌を嫌気性菌培養条件下にて発育させた結果、先の乳酸菌のみが特異的に増殖することが明らかとなった。目的となる腸内細菌の単離には、培養条件やゲノム情報から対象となる菌を探索する必要があり、本年度の成果として、単離・同定ができたことは大きな進展である。 生体内のリノール酸代謝物の検出には高感度質量分析機器を用いる必要があり、これまでの機器では検出が微量であった物質がより精度よく検出することができる。理化学研究所、メタボローム研究チームとの共同研究により、リノール酸代謝物であるHYAや共役リノール酸が、高リノール酸食給餌マウスの肝臓にて増加していることが明らかとなり、腸内細菌代謝物が肝臓に蓄積していることの証明となった。 リノール酸代謝菌を単離できたことは、今後の研究において有意義であり、その菌が腸内にどれほどの割合で存在するのか、また病態に関与するのかを確かめる上で有用なツールとなるため、次年度の研究に有効活用できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として、リノール酸代謝物の肝臓への蓄積と代謝菌が確認されたことから、以下の研究計画を実施する。①肝臓に蓄積されたリノール酸代謝物を腸内細菌が産生するか、②抗腫瘍機構は何か、③①の腸内細菌代謝物が抗腫瘍効果を誘導する対象は何か、④その他のリノール酸代謝菌の検出、腸内細菌叢解析。 ① 肝臓に蓄積されたリノール酸代謝物を腸内細菌が産生するか→生体内にてリノール酸代謝物が検出されたことから、単離した腸内細菌が実際にリノール酸代謝物を産生するかを確かめる必要がある。リノール酸代謝物は脂肪酸であることから、検出・定量をガスクロマトグラフィーにて実施することで、検出感度を増幅させる予定である。 ② 抗腫瘍機構は何か→脂肪肝から肝がんに至る過程の、どの段階にリノール酸代謝物が腫瘍形成の抑制効果を持つか明らかにする。育成早期の段階ではNASHを想定し、また後期では抗腫瘍免疫について、それぞれの抑制/促進機構を病理学、免疫学的手法を用いて解析する。 ③ ①の腸内細菌代謝物かが抗腫瘍効果を誘導する対象は何か→①にて肝臓へ蓄積が確認された脂肪酸が、どの細胞を対象に作用するかを解析する 。肝臓中の細胞を、セルソーターによって免疫細胞や肝星細胞を単離し、リノール酸代謝物添加による関連遺伝子の発現を解析する。また脂肪酸の多くがGPCRを受容体として作用することから、リノール酸代謝物の受容体を同定する。 ④その他のリノール酸代謝菌の検出、腸内細菌叢解析→腸内細菌が持つリノール酸代謝酵素については解析がなされているが、マウス腸管に対象となる細菌が定着しているかは不明である。16SrDNA解析によってリノール酸代謝酵素を有する腸内細菌の存在を確認する。また2%LA-HFDと12%LA-HFDでのリノール酸代謝菌の増減を観察し、DMBA塗布の発がん誘導モデルにおける腸内細菌叢の変化も同時に解析する。
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