重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はSFTSウイルス(SFTSV)の感染により惹起されるダニ媒介性の人獣共通感染症である。主な症状は発熱、白血球減少及び血小板減少等であり、高い致死率(約27%)を示す事から新興感染症として公衆衛生上の大きな問題となっているが、その病態形成機序は依然として解明されていない。 本研究室のこれまでの研究活動により、SFTS患者のリンパ組織等に形質芽細胞様の異型リンパ球が増生・浸潤している事が明らかとなった。白血球数減少を特徴的な検査所見とするSFTSにおいて、特徴的に誘導される異型リンパ球はその病態形成に寄与する事が示唆される。本研究では、ヒト由来末梢血単核球(PBMC)を用いたSFTSV感染試験系を構築し、SFTS病態形成に果たす異型リンパ球の役割の一端を明らかとした。 始めに、健康なボランティアから採取した初代培養PBMCに試験的にSFTSVを感染させた結果、ウイルス感染特異的に大型の細胞が誘導される事を偶発的に見出した。これら大型細胞の細胞形態、及び細胞表面マーカーの発現を詳細に解析した結果、SFTS患者で観察される異型リンパ球と類似したB細胞系のリンパ芽球である事が明らかとなった。以上より、初代培養PBMCを用いたSFTSV感染試験系により、人工的に異型リンパ球を誘導できる事が明らかとなった。 異型リンパ球の誘導機序を解析する為に、SFTSV感染性、B細胞のウイルス感受性、細胞培養上清中に含まれる液性因子について評価した。その結果、異型リンパ球の誘導には感染性を有するSFTSVが必須である事、単離したB細胞から異型リンパ球が誘導される事、培養上中に含まれる何らかの液性因子が異型リンパ球の誘導を惹起する事が明らかとなった。 上記の成果より、本研究では異型リンパ球をin vitroで再現し、その誘導機序の一端を解明する事に成功した。
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