研究課題/領域番号 |
19K21275
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 貴之 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (40823290)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 肝内胆管癌 / エピネフリン / 神経微小環境 |
研究実績の概要 |
肝内胆管癌の切除例の5年生存率でも40-50%であり、非切除例においては10%未満といわれ、一般に予後不良である。癌組織は癌細胞を取り巻く環境との相互作用により癌特有の微小環境を形成している。なかでも神経微小環境は自律神経を介して癌促進に大きく関わっていることが近年報告されている。当院で切除した肝内胆管癌において神経マーカー染色と臨床データとの関連および自律神経シグナルが細胞増殖に関与するか検討した。 【結果】 (1) In vitro実験において、無血清培地群(0%FBS培地群)と自律神経刺激群(ノルエピネフリン負荷群)を比較すると、1.3倍の増殖効果を認めた。これは通常の10%FBS培地で細胞培養した際の細胞増殖率とほぼ同等の結果であり、さらに、濃度依存的に細胞が増殖する傾向が見られた。 (2)In vitro実験において、細胞株にエピネフリン付加した群と非負荷群で細胞のRNAを採取し、ADRB2の発現を検討したところ、選択した2種類の肝内胆管癌細胞株では、いずれにおいてもADRB2の発現が著明に上昇しており、エピネフリン負荷(=ストレス負荷)においてADRB2が関与している可能性が示唆された。また、さらにその細胞のRNAを利用してPCRを行ったが、神経成長因子のうちNeural growth factor(NGF)が有意差をもって上昇しており、これまでの報告通り、ADRB2-NGFのシグナルが大きく関与している可能性が明らかとなった。 【考察】神経肥大の因子検討として神経成長因子NGFの関与が示されたが、PCRでの結果であり、蛋白レベルでの検討が必要と思われるために、ELISA測定を行い、さらに検討を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の目的は、胆管癌と神経浸潤の状況を把握し、また、ストレス負荷を模倣するエピネフリン添加による細胞培養の状態を検討することであった。 本年度の取り組みにおいてはin vitro実験で、肝内胆管癌細胞株に対し、自律神経刺激を模倣したノルエピネフリン投与を行い、細胞増殖の状況を検討し、ノルエピネフリン負荷による細胞増殖の傾向を認めた。 さらに細胞のRNAを抽出することで、ADRB2の発現の差異を検討し、さらにそこから発現する神経成長因子のうち最も関与しているのがNGFであるということが明らかとなった。 これらの実施内容は肝内胆管癌における増悪因子が神経成長因子NGFである可能性を解明する足掛かりとなった。今後は阻害実験で実際のキーメディエーターがNGFであることを確認するところであるが、その点については予定よりも遅れを取っている。 また、In vivo実験は、当初の計画よりやや遅れているが、肝内胆管癌マウスモデルがようやく安定して作成できるようになり、本研究の目標のひとつであるマウスモデルに関する第1段階をクリアした。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの結果をもとに、神経微小環境(交感神経亢進状態=ストレス負荷状態)と肝内胆管癌がアドレナリン受容体を介して神経成長因子を放出するのか、そのシグナル伝達の解明を行い、さらにそのシグナルを抑制することにより、どのように変化するかをさらに検討する。 1)in vitro実験では、細胞株を刺激した際の遊走能や浸潤能及び放出神経成長因子の検討を行い、さらにその阻害実験についても検討する。PCRにより、シグナル伝達のメイン経路を特定し、シグナル経路の阻害と神経成長因子の阻害実験をおこなうことで、そのシグナル同士がいかに相互作用するか検討する。 2)in vivo実験で、C57BL/6-Jマウスの胆嚢内にYAP/AKT/SBプラスミドを注入し、ストレス負荷をかけ、また同時にADRB2阻害薬(ICI 118,551)を投与することによるレスキュー実験を並行して行う。ストレス負荷なしvsストレス負荷ありの群間で組織学的観察(HE染色、免疫染色、蛍光免疫染色)を行い、BilIN発生量、神経伸長の程度、RNA採取によるADRB2発現の差異およびカテコラミン(エピネフリン)の放出量を検討する。さらには、生存期間の検討も行う。摘出標本から蛋白抽出した後Western blotによる活性化されるシグナル伝達の検討を行う。この実験でカテコラミン-ADRB2シグナルの胆管発癌関与並びに治療標的の可能性を見出す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
安定したマウスモデル作成に時間を要し、動物を使用したストレス負荷や阻害実験が実施できず、動物実験の薬剤やマウスの購入のために必要経費として計上していた費用の使用を見送った。 最終的な濃度設定などは十分に検討がなされたために、In vivo実験、In vtro実験ともに、症例数を増やして細胞の遊走能や浸潤能や薬剤阻害実験などを行い解析を実施するため、必要な試薬等を購入する予定である。
|